週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.9

  1. 近況

  2. 世界の音楽ニュース

  3. 未来をつくる音楽機材

  4. 今週の…

  5. 質問コーナー

  6. Okina’s Picks

  7. ブログ更新のお知らせ

  1. 近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

みなさん、自分の聴力を測ったことはありますか?

自分の耳はどの周波数がよく聞こえ、どの周波数が聞こえづらいのか、簡単に測定できるスマホアプリがあるのでご紹介します。

それが、こちらの聴力検査 & 耳年齢テストです。

用意するのは、イヤホン(カナル型がおすすめ)かヘッドフォン、あとは小さな音を認識できる静かな環境のみ。

ミキシングやマスタリングを自分でやりたいなら、ぜひ自分の耳の特性を理解しておくことをおすすめします。

ちなみに僕が去年測った結果はこちら。

おそらく10,20代と比べ、全体的に聴こえにくくなっていると思います。

グラフを見ると、高域はとても良く聴こえていますね。

確かに高い音にとても敏感で、渋谷や東京でよく鳴っている、ネズミよけのモスキート音はとても不快で、耳が痛くなります。

あとは微妙ですが、250Hzあたりの中低域の聴力が落ち込んでいますね。

PAやミキシングの仕事をする時、僕はここら辺の周波数を上げすぎる傾向があったのですが、自分の耳をチェックしてみて、なぜそうなっていたのかを理解しました。

このように、自分の耳の特性が理解できれば、ミキシング時にどの周波数帯に気をつければ良いのかがわかり、ミックスの質が上がります。

耳は年齢とともに衰えるので、こればかりはどうしようもありません。(耳の感度を鍛える方法はありますが)

それよりも手っ取り早く対処できるのが、自分の聴力を理解して、ミキシング時に意識するという方法です。

自分の聴力を知りたい方は、ぜひ試してみてください。

  1. 世界の音楽ニュース

音楽の世界は日々進化しているので、音楽制作の環境もビジネスの方法も、数年経てばガラリと変わってしまいます。日々、世界の音楽トレンドを探ることで、ワクワクするような新製品・新たな音楽サービスを発見し、また、今後アーティストが生き残るためのヒントを見つけ出します。

  1. Get Ready: The Future of AI-Powered DJing is Nearer Than You Think→Text-to-DJのAI「Reffusion」を使えば、「スピードアップしてディスコ風味を加える」「短調に変える」「ミニマムバージョンに戻す」などの指示で簡単にDJができるようになります。OpenAIのJukebox、GoogleのMagenta(Max for Liveでも使用可能)といった、優れた音楽生成ソフトもたくさん登場しているので、いよいよ、一部の優れたDJとプロデューサーしかお金を稼げない時代になってきそうです。

  2. Google Opens Up AI Text-to-Music Generator MusicLM — Just Don’t Ask It to Mimic Popular Artists→1週間ほど前に発表されたGoogoleのText-to-Musicサービス、MusicLMですが、現在はウェイティングリスト待ちで、誰でも試せるわけではないようですね。パッとみたところ、精度はMubertよりも上なのかな?と思いましたが、実際にじっくり使ってみないとなんとも言えないところ。5年もすれば、かなり実用的になっているかもしれませんが、AIが音楽を作るというのは、今のところ画像生成に比べて、実用性はほとんどありません。

  3. L-Acoustics to Distribute Mixhalo with L-ISA 3.0→ライブの音をリアルタイムで観客のスマホにに伝送し、ヘッドフォンでライブを楽しめるようになる技術を、L-AcousticsとMixhaloが発表しました。スポーツのリアルタイム実況中継や外国語通訳など、ライブ用途以外にもあらゆる可能性を秘めているL-ISAですが、こちら、バイノーラルミキシングをするだけなら個人ユーザーでも無料でダウンロードが可能です。業界的にも「個人でサラウンド環境を構築するのは流行らない」となっているのか、「ヘッドフォンでバイノーラルリスニング」の需要が高まってきているように感じますね。

  4. TikTok Officially Announces the ‘Artist Impact Program’ — Expanding the TikTok Commercial Music Library→TikTokは、Artist Impact Programという、商用ミュージックライブラリを拡大することを発表しました。今や、SNSの中心的存在であるTikTokですが、同プラットフォームには音楽が欠かせません。TikTokでバズってから、メジャーデビューするアーティストが出てくる時代。Artist Impact Programによって、アーティストは新たな収益源が生まれると同時に、TikTokでのバズを狙うことでファンを獲得して成長していくという、新たなアーティストの生き方を支援するサービスになる可能性を秘めています。

  5. Superbooth 23: Teenage Engineering’s TP-7 is a beautiful portable recorder that’s designed “to do one thing well”→今週は、Suberboothの話題が目立ちますが、中でも気になっているのがTeenage EngineeringのTP-7というレコーダー。最近は、マイクもリリースしていましたが、マイクもレコーダーも1,000ポンド超え。日本円だと200,000円近くするでしょうね。TP-7の目玉はモーター駆動の「テープ」リール、らしいので、「良い音を録りたい!」という人向けではない気がしますが、相変わらずの物欲をそそるインターフェースのおかげで、気になって仕方ありません。日本に入ってきたら、試してみたいと思います。

  1. 未来をつくる音楽機材

音楽機材やプラグインは毎年新しいものが登場します。特に、プラグイン(音楽ソフト)はコンピュターの進化に伴って、毎年進化していきます。今や、AIプラグインなどの最新技術を活用することで、技術や経験の蓄積をすっ飛ばして優れた音楽が作れる時代になりました。ここでは、そんな音楽制作に役立つ最新の音楽機材・プラグインの情報をお伝えしていきます。

去年から映画の整音にも携わっているのですが、今年からDolby Atmosでのミキシングに取り組みます。

イマーシブ環境になると、部屋鳴りの調整は欠かせないですが、業界では定番のTrinnovではなく、個人ユーザーでも使っている方が多いSonarworks SoundIDで、まずは調整してみようかと考えています。

今までは、サラウンド環境の構築にGenelecのGLMを使っていたのですが、正直、補正の精度は微妙なところ・・・

以前にTrinnovを借りて、同じように5.1ch仕様のGenelecスピーカーを補正したところ、かなり映画館やダビングステージに近いところまで持っていくことができました。

Dolby Atmosは、今後、個人ユーザーにまで広がる可能性を秘めているので、SoundIDでうまく補正ができれば、誰もがDolby Atmosで音楽をミキシングできますよね。

うまくいけば、この環境で作曲したものをミキシングし、今年中にリリースしてみる予定です。

Dolby Atmosなら一度作ってしまえば、いろんなフォーマットに簡単に変換できるので、ヘッドフォンリスニング専用のバイノーラル版を出してみるのも良いかもしれません。

こちらも、また記事にして皆さんにお届けいたしますね。

  1. 今週の…

ここでは毎週違ったテーマ、例えば、日本や世界各地で録りためたフィールドレコーディング、おすすめの1曲、音楽に関する映画、などをお届けします。皆さんの音楽制作の刺激になるような、おもしろいコンテンツを毎週ご用意していきたいと思います。

Form and SandのCircle 23という曲を、テキサス州ヒューストン出身の Matt Kiddによるソロプロジェクト「Slow Meadow」がReworkした作品。

原曲も美しいですが、Slow MeadowによるこちらのReworkは、さらに音が洗練されていて、この上なく上品な作品に仕上がっています。

Slow Meadowはポストクラシカル、アンビエントジャンルにおける最高峰のアーティストの一人だと思います。

アルバムならHappy Occidentがおすすめ。

定期的にリリースはしていますが、彼に関する情報はそれほど多くなく、来日したこともないようですね。

Nils Frahmぐらいの大物なら観客も集まるのでしょうけど、Slow Meadowと聞いて、果たしてどれくらいの人が日本で集まるのか・・・

是非とも、生でライブを聴いてみたいものです。

  1. 質問コーナー

みなさんからのご質問受け付けています。

音楽機材のこと、制作のこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ!

自分で作った楽曲に関するアドバイスが欲しい!という方は、SoundCloudのリンクを送っていただければお答えいたします。

【Q.1】

初めまして。トラック制作を行なっておりまして、直近で製作したものに対してアドバイスをいただければと思い、メールいたしました。ハウスやテクノのDJミックスを想定したトラックものを想定して製作しています。今回送付したリンクのトラックは、昨今のUKG的な要素を持ったリリースを意識しつつ、それらの楽曲に多く見られる派手さを無くして、シンプルなハウスやテクノのDJミックスでの使いやすさを意識して制作しました。

【A】

これは完成度が高いですね。

もう既に、クラブでかかっているのがイメージできる、素敵なミニマルトラックです。(そういえば、ちょうど今日は、WWWで田中フミヤさんがDJですね)

さて、派手さをなくしたシンプルなトラックを意識されたとのことですが、ミニマル系の音なら、1音1音の鳴りが非常に大切になります。

トラック全体としては、とてもバランスが取れていて、変にこもっていたり、耳に刺さったりする箇所はありません。が、

まず、キック選びでトラックが大きく飛躍しそうだと感じました。

このキック、悪くはないのですが、ミッドが強めで少しパンチが足りない印象です。低域を持ち上げるUAD VODやWaves Submarineなどを使っても良いかもしれませんし、キック自体を変えてみるのも手でしょう。ダイナミクスがありすぎるのも、パンチが足りない原因になっているかもしれません。コンプをうまく使ってダイナミクスを整えるだけでも、低域の成分が増して迫力が出ると思います。

次にドラムトラック。ハイハットやコンガは適度な空間性があって、とても良い!これはショートリバーブがかかっているのでしょうか。絶妙です。バランスはとても良いのですが、こちらも、もう少しパンチが欲しいところ。例えば、サチュレーションを薄くかけることで、適度なコンプ感とパンチが出るので、こちらも試してみてもらいたいです。(過度に歪ませる必要はありませんが)

あと、メロディーラインですが、楽器が少なめでミニマルにまとまっている分、シンセはもう少し動きがあっても良いと思います。もし、ご自身でシンセやディレイから作られているのならパラメーターを微妙に変化させてみる、サンプルをお使いならフェイザーなどを入れて、こちらも微妙にパラメーターを変化させることで動きを出すことができます。

トラックとしての完成度が高いので、ミキシングやアレンジの精度を高めれば、大箱でも鳴らせる曲になると思います。

  1. Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🎬映画: クインシーのすべて - マイケルジャクソンのプロデューサーとしても有名なクインシージョーンズの自伝的映画。彼の音楽への向き合い方がとても印象的でした。定期的に見返したくなる映画ですね。

📺YouTube: ドビュッシー サティ ラヴェル編①「民族音楽との出会い」 - 好きな作曲家が3人並んでいたので、気になって観てみました。坂本龍一さんが、先人の音楽を通して音楽の素晴らしさや奥深さを解説して下さっています。これがYouTubeで無料で観れるのは最高ですね。

📚本: Last Night a DJ Saved My Life (English Edition) - DJ文化を学ぶならこの一冊。主にハウスミュージックの歴史が、年代別に解説されています。紹介されている曲はYouTubeで聴けるものも多く、今からDJを始める方や、輝かしいDJ黎明期をあらためて振り返りたい方におすすめ。

🎧チル: ETCHED 001 飛翔 - Kaoru Inoue / Shimoda City, Izu, Japan - 僕の大好きなプロデューサー/DJの井上薫さんによるDJ。コロナでこういった空撮系のDJ映像が増えましたが、こちら、今はもう活動していないようですね。音楽と映像はとても相性が良く、特にこういった音楽は、自然との相性が抜群です。

  1. ブログ更新のお知らせ

最近、気に入っているUniversal Audioのバスコンプレッサーです。

サチュレーションでけっこう音が変わってしまったり、サイドチェーンフィルターの周波数が365Hzか700Hzしかなかったりと、なかなか特殊なコンプですが、バスコンプとしての使い心地は好きな感じです。

真空管ベースなのに、ウォーミーになりすぎず、程よいパンチがあるところがとても良い。

なんだかんだ言っても、UAは良いプラグインが多いですね。

サブスクか、セールの時にバンドルの一括買いがおすすめです。

週刊「スタジオ翁」メルマガ版 Vol.9

2023年5月19日発行

Blog: https://studio-okina.com/

Twitter: https://twitter.com/studiookina