週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.70

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 今週の音楽ニュース

  3. AI時代の作曲術

  4. 作曲とミキシングのアイデア帳

  5. Q&A

  6. Okina’s Picks

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

旅のオーディオインターフェースはZOOM F3が良い

先日、実家に帰る機会があり、その際に仕事で必要なオーディオインターフェースを一つ持って帰りました。自分の声をDAWに録音したいだけだったので小さければ何でもよかったのですが、iRigのような小型マイクプリなどを持ち合わせていなかったため、UA Apollo Soloをカバンに入れて持って帰りました。結局、旅先では全く録音をしなかったのですが、家に帰ってきて、ZOOM F3の存在を思い出し、リュックに入れるには少し重いオーディオインターフェースを3日間も持ち歩いていたことを後悔しました。

もともと、ZOOM F3はフィールドレコーディング用に購入したものですが、実は、USB-Cケーブルでラップトップに繋ぐだけでオーディオインターフェースにもなり、Ableton LiveなどのDAWに録音できる32bit Floatマイクプリに早変わりします。これがあれば、どこでもDAWに録音ができ、さらには外に持ち運べるほどのコンパクトなサイズなので、フィールドレコーディングに使うこともできます。

ちなみに今回、録音が必要だった仕事というのは、AIボイスチェンジャーを使った替え歌の制作です。これは海外のフリーランスサービスで受注したのですが、「AIを使って、妻の64歳の誕生日にビートルズのWhen I’m Sixty‐Four(僕が64歳になったら)という曲を、私が考えた歌詞に沿ってビートルズの声で歌っているように仕上げてほしい」という依頼でした。こういうのは、AI時代の作曲術でも紹介しているKits.AIなどのツールを使えば簡単にできます。どうせAIで学習された声に変換するので、僕の歌がうまいかどうかはそれほど重要でないですし(Melodyneで補正はします)、録音品質もそれほど高くなくても構わないのでF3で充分というわけです。これが旅先で本格的な歌のレコーディングをするとなれば、Zoom F3では物足りないかもしれませんが、用途によっては充分活躍してくれます。

ライン端子がミニジャックのみなので、スピーカーにも繋ぎたければApollo Soloのようなオーディオインターフェイスにした方が良いかもしれませんが、もし気軽に持ち運べる簡易的なマイクプリを探している方がいれば、ZoomF3を視野に入れてみても良いかもしれません。

📱今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
  1. ブライアン・イーノのドキュメンタリー映画のサウンドトラックが発売中

    →今年の1月にインディー映画の祭典SUNDANCEで公開されたブライアンイーノのドキュメンタリー映画。そのサウンドトラックが発売されました。ちなみに映画はMUBIで視聴できます。

  2. Soulyft Audioからグラデーション・シンセ・アプリが登場

    →色からアプローチするシンセサイザーアプリが登場しました。

  3. FL Studio 2024に新しいプラグイン、AIツールが追加され、FLクラウド・ライブラリが拡充

    →FL Studio 2024にAIマスタリング、AIディクリッパー、AIコードツールなどのAIツールが追加されました。もうDAWにAIが入っているのは当たり前の時代なんですね。

  4. サウンドラボとユニバーサルがMicDrop AIプロジェクトを発表

    →SunoAIに対して訴訟を起こしているユニバーサルですが、BTによって設立されたAI企業「SoundLabs」と提携し、最先端のAI ボーカルプラグインMicDropを使った自社アーティストのボイスクローニングを進めています。あくまで、アーティスト本人らが活用するための取り組みとのこと。

  5. ムーグ・ラビリンス、新しいセミモジュラー・シンセサイザーは2つの海岸をジェネレイティブに探求する

    →Moogから西海岸シンセシスを融合させた新たなシンセが登場しました。僕はBuchlaサウンドが大好きなので、これは早く触ってみたいです。

🤖AI時代の作曲術

最新のAIプラグインやAI作曲ツールの紹介。

新たなAIボーカル変換サービスAudimeeの登場

AI時代の作曲術でも紹介した、AIボーカル変換サービス「Kits.AI」のライバルサービスの1つに、Audimeeがあります。

Audimeeは後発のAIボーカル変換サービスですが、Googleトレンドで比較してみると、大きな話題にはなっていませんが、徐々に知名度が上がってきていることがわかります。

グラフの青い線がKits.AIで、赤がAudimeeです。

僕は普段からKits.AI使っていますが、アップデートによって次々に新しい機能が追加され、かなり使いやすくなってきています。一方、Audimeeはパッとみる限り機能が少なそうで、まだまだKits.AIの方が優勢なのかなと感じました。

AIボーカル変換ツールとしての最低限の機能は備えているので、どこかで一度、Kits.AIと精度の比較をしてみたいですね。

Audimeeは最近YouTuberとコラボしていて露出も多いので、今後より目にする機会が増えるかもしれません。

ボーカルのAI変換サービスを検討している方は、ぜひこのAudimeeも候補に入れてみてはいかがでしょうか。

📘作曲とミキシングのアイデア帳

作曲やミキシングが上達するための、動画・記事・アイデアをご紹介します。

2022年に最も再生されたダブステップトラックで注目を集めた、Ray Volpeのインタビュー。

先週同様、気になったインタビューを抜き出してご紹介します。

「新しいトラックを書くときは、まずどのように取り組みますか? ビートから始めますか、それともメロディーや音の要素から始めますか?」

「このプロセスは私にとって常に変化しています。ドロップから始めることもあれば、ボーカルメロディから始めることもあります。DAW 内でその日に感じていることによって異なります。構造があることは、ものを作るのに良いことだと思いますが、何も計画せずにもっと混沌としたアプローチをとると、楽しい結果につながることもあると思います。」

「個人的には、その方が勉強になります。コード進行を作らなければならないと感じるよりも、自然に感じたときに感情を吐き出す方が私にとっては簡単です。その方が仕事のように感じられるんです。」

私たちが最初にあなたのことを知ったのは、素晴らしい「Laserbeam」でした。あの曲の成功はあなたにとってどんな変化をもたらしましたか?また、曲作りへの取り組み方にも影響しましたか?

「勢いをつけるのは難しくないけど、それを維持するのは難しいと言う人もいます(これはすでにかなり過激な意見ですが)。私はそれを信じています。毎日、私と私のチームは、どうすれば本物の道を進み続けながら、プロジェクトの熱気を維持できるかを考えています。でも、私は今でも音楽に対して同じアプローチをしています。そこは何も変わっていません。そうしないと、Laserbeam 2 や 3 などを作ることばかり考えてしまいますから、そうしないようにしています。もちろん、それは普通のことです。最初の 6 か月ほどは [ストレスを感じやすい] 傾向がありましたが、すぐに、本当にこれをやりたいのであれば、その考え方を変える必要があることに気付きました。」

ベースに特によく使うシンセは何ですか?

「ベースに関しては、すべて Serum に頼っています。Sonic Charge の Synplant も少し使っています。Vital や他のものも使っている人がたくさんいますが、私は自分が知っているものにこだわるのが好きです。そういう意味ではちょっと頑固なんです。いずれは拡張すると思いますが、しばらく時間がかかります!」

プラックやパッド、そして幅広いシンセサイザーパレットの要素に関しては何を使用していますか?

「パッドやプラックなどにVPS AvengerやSpireなどのシンセを使用しています。ギターやドラムなどの「本物の」楽器については、副業としてメタルコアなどの曲をたくさん書いているので、Kontakt Expansionsを多用しています。」

ソフトウェアで記述するのとハードウェアで記述するのとではどちらが好きですか。また、この 2 つには違いがありますか。

「実は、私はこれまでハードウェアを扱ったことがありません。それは、私が中流家庭の中でもかなり貧しい家庭に育ったからかもしれません(ハードウェアは高価なのです!)。また、私は幼い頃からコンピューターやソフトウェアに夢中でした。将来、ハードウェアの方向に進むことは考えていません。」

通常、スタジオではどのくらいの時間を費やしますか? ミキシングにはどのようなアプローチをしますか?

「必要なだけ時間をかけます。スケジュールは決めません。すべてが自然に出てくるようにしています。2か月間Abletonに触れないときもあれば、毎日14時間Abletonにいて、4つのクレイジーなアイデアを次々に生み出すときもあります。本当に多くの要因によります。すべては自分にとって適切な瞬間とモチベーション次第です。ミックスは作業しながら行います。サブやキックなどをどこに配置すればよいかはわかっているので、制作しながらすべてを行います。そのプロセス全体を通してマスターをオンにしているので、すべてが常に再生可能な状態になっています。」

ソーシャル メディアや観客の反応をどの程度意識していますか? また、フィードバックはどのようなタイプのトラックを書いて演奏するかを決めるのに役立ちますか?

「ソーシャル メディアは私にとって非常に重要です。多くのアーティストは、ソーシャル メディアをあまり真剣に受け止めていないか、頼るべきではないと感じています。それは間違ったやり方です。ソーシャル メディアに ID を投稿し、みんながそれを熱心に聞いているなら、それは特別なものを手に入れたということです。同時に、私は数え切れないほど多くのクリップをオンラインに投稿してきましたが、ほとんどまたはまったく反応がありませんでした。それらの曲はしばらく後回しにして、作り直すか、完全に破棄するなどすべきだとわかっています。

「反応を測るには素晴らしいツールです。もちろん、ソーシャルメディア用ではなく、自分のために音楽を作るのですが、目の前にあるそのツールを使うべきです。ライブでDJをしているかのようにリアルタイムの観客が、24時間いつでもポケットの中の携帯電話やデスクのノートパソコンの中にいるのです。」

🙋‍♂️Q&A

音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
マシュマロにて、お気軽にどうぞ。

🧠Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🎆Max Cooper - Live at the Barbican (Yearning for the Infinite)Max Cooper - Live at the Barbican (Yearning for the Infinite) - 先週日曜日に、表参道のVentでMax Cooperののライブがありましたね。こちらの動画で、4年前のライブの様子を観ることができます。 圧巻のビジュアルパフォーマンスライブ!

🤖音楽プロデューサーのための最高のAI音楽プラグイン! | AIプラグインレビュー - メロディー生成やステム分離のためのいくつかのAIツールが紹介されています。僕の知らないツールもいくつかあったので興味深かったです。一番使えるのは、やはりSplice Createでしょうね。

🥁キックにパンチを出すミックス方法! - この方、登録者は少ないですが、キックにパンチを出す方法という動画がかなり参考になりました。僕もWavesのLil Tubeはめちゃくちゃ使ってますが、本当に良いサチュレーションプラグインです。

👾『オーディオゲームセンター+CCBT』が夏休みにオープン 〜音だけで楽しめるオーディオゲームを体験 - 視覚情報に頼らずに、音声情報をだけを活用した新しいゲームが体験できるそう。期間中に様子を見に行ってきます。

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週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.70

2024年7月19日発行

Blog: https://studio-okina.com/

HP: isseykakuuchi.info