週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.58

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 今週の音楽ニュース

  3. DIYアーティストのためのマーケティング戦略

  4. 著書「AI時代の作曲術」先行公開

  5. Q&A

  6. Okina’s Picks

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

今週は、クラウドファンディングで話題になっているスピーカーを試聴してきました。

一見、普通のBluetoothスピーカーのように見えますが、特殊な内部処理を施されているので、左右のユニットからリスナーに向けて音が飛び出し、まるでスピーカーの周りに音が並べられているかのような広がりで音楽を楽しむことができます。単純に二台のスピーカーを左右において、ステレオで聞いた時とは全く違う音の鳴りがするので、すごく不思議な感じでしたが、とても新鮮な体験でした。

たった1台でステレオの広がりを再現するスピーカーというのは、今まで1つもなかったように思います。今はクラウドファンディングのみの予約となりますが、発売されればかなり話題になるのではないでしょうか。

他にも複数のスピーカーを組み合わせることで音に広がりを出したり、サラウンドシステムを組んで映画館のように楽しむことができたり、内蔵のジャイロセンサーを使って簡単にスピーカーの配置をプログラムしたりすることが可能となっています。

このスピーカーを販売しているシーイヤという会社は、もともとはスピーカーメーカーではなく、信号処理を強みとする会社で、これまでに筐体設計、電気・電子回路、最先端技術を使用した音響空間の測定などを行なっているそうです。

マイクも内蔵されているので、スピーカーを囲んで会議に使用したり、テレビやパソコンの前に置いて映画を楽しんだりと、様々な使い方ができます。東京では二子玉川の蔦屋書店で視聴ができるので、気になった方はぜひ聴きに行ってみてください。Kii Audio並みの画期的なスピーカーだと思います。

📱今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
  1. Dawesome Myth、新しいシンセサイザーでAIがサポートする再合成の旅へ→TracktionのDawesomeシリーズは面白い音作りができるので、どれもかなり好みです。特にNovumというシンセが大好きで普段からよく使っているのですが、今回登場したMythも「モジュラー式の音作り」「機械学習に基づく音の再合成」など面白そうな機能が盛りだくさんです。

  2. Neutone、AI活用の音色変換プラグインNeutone Morphoをリリース→日本発のAIカンパニーNeutoneが、新たなAIプラグインをリリースしました。これまでのプラグインは、正直あまり使う気になれませんでしたが、これはかなり期待できそう。環境音との使用がとても面白そうだと感じました。気になる方はこちらの動画をチェックしてみてください。

  3. Elektron Digitakt II: ステレオサンプリング、マルチFX、より強力な馬力、ストレージ→ElektronのドラムマシンDigitaktに、新しいモデルが登場しました。エフェクトとモジュレーションの拡張、16 ボイス (8 から増加)、20 GB の内部ストレージ、ステレオ サンプリングなどに対応しています。DigitaktといえばAnalog Rytmの廉価版というイメージでしたが、17万円となかなか気軽に買える製品ではなくなりましたね。

  4. 2024 読者投票によるベストギア投票→ ヘッドホンレビューで有名な会社Headphoniaが、2024年の読者投票によるベストギアを発表しました。 ヘッドフォン部門はAudeze LCD 5ではなくMezeが1位だったのが意外でしたね。 ヘッドフォンアンプ部門ではChrod Mojo2が根強い人気を誇っています。僕もMojo2は大好きですが、最近は超小型の高性能DAC「E1DA」が好きでよく使っています。たった一万円ほどの値段なのに、とてつもなく解像度が高いのでおすすめです。Mojo2のような豊かな低音はなく、どちらかと言うと分析的な音なので、好みは分かれるかもしれませんが…

  5. ストリーミングが2桁成長する中、ラテン音楽のレコード売上が昨年米国で14億ドルに達したことが報告書で明らかに→今年のCoachellaでも、ラテンアーティストが目立つなと感じていたのですが、実際、ラテン音楽の売り上げがアメリカで伸びているようですね。

📘著書「AI時代の作曲術」先行公開

いま書いているAI作曲の本の一部を、ニュースレターの読者である皆さんだけに、ちょっとだけお見せいたします。(内容は出版時に変更される可能性があります)

前回の続きです。

##3. ラフスケッチの作成

作りたい曲のイメージが明確になったところで、ここから実際に音楽を作ってみましょう。音楽を初めて作る人は、どこから始めればいいのかわからず、途方に暮れてしまうかもしれませんが、一昔前のようにスタジオに入り、イチから楽器を収録する必要はありません。

まずは、サブスク型のサンプル音源サービスを使い、曲のアイデアを練り上げるところから始めます。

### サブスク型サンプル音源サービスの活用

SpliceやLoopcloudを使えば、既にスタジオで収録されたギターやピアノの音からシンセサイザーのリフまで、様々な楽器の音を自由に使い、それらを組み合わせて作曲することができます。個人的には、最近iPhoneアプリもリリースされたSpliceがおすすめです。

これらのサービスでは高品質なサンプルをサブスクで利用できるので、プラグインやサンプルへの初期投資を抑えられます。また、膨大な数のサンプルが用意されているので、自分のイメージに合った音を見つけやすいのも魅力です。

### AI機能を活用したワンループ作成

Splice Createというサービスには、AI機能が搭載されているので、これを使って誰でも簡単にワンループを作ることができます。

例えば、好みのピアノサンプルを選択して「Create」機能を使えば、AIがそのサンプルに合うドラム、ベース、FXなどを選んでワンループを作ってくれます。ワンクリックで他のサンプルに置き換えてくれるので、気に入らないサンプルがあれば、納得いくまでサンプルをシャッフルし続ければ良いだけ。

AIが選んだサンプルは、音楽理論に基づいた調和の取れたものになっているので、音楽理論に詳しくない人でも、簡単に良い感じのループを作ることができます。また、AIが選んだサンプルをベースに、自分でサンプルを追加したり、削除したりすることで、オリジナリティのあるループを作ることができます。

### AIVAを活用したラフスケッチ作成

他にも、AI作曲ツールのAIVAを使ってラフスケッチを作る方法もあります。

AIVAはワンループどころか1曲まるごとAIが作ってくれるのですが、ステムでダウンロードできるので、このあと紹介するAIなどを使って、特定のステムを自分のオリジナルに置き換えながら、好みの曲を完成させていくことができます。

AIVAを使えば、音楽理論に詳しくない人でも簡単に音楽を作ることができます。ただし、ジャンルによっては素人が作ったようなメロディーが出てきたり、楽器同士のリズムが変だったりと、一回の生成で完璧な曲が出てくるわけではありません。あくまでAIVAでは曲の骨子となるラフスケッチを作り、そこから自分のアレンジを加えていくという風に使うのがおすすめです。

ラフスケッチが完成したら、次は各パートのアレンジを詰めていきます。

###ラフスケッチの生成に使えるAI

- Splice - AI機能を搭載したサブスク型サンプル音源サービス。プロのアーティストにも愛用者が多い。

- AIVA - 曲を丸ごと一曲作ってくれるAI。MIDI出力やステムごとの出力にも対応しているので、後から細かい編集が可能。

📊DIYアーティストのためのマーケティング戦略

音楽で稼ぐにはどうすればいいのか?どのようにリリースするのが効果的なのか?DIY(インディペンデント)アーティストが、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらう方法を探っていきます。

知名度のないアーティストは広告に初期投資してみる

以前は、Spotifyのピッチ機能を使うことで、曲をリリースするごとにプレイリストに載せてもらうよう働きかけることができました。

今もピッチ機能は使えるものの、ピッチした曲をリリースしてからでないと次のピッチができないため、リリース頻度を高めることができず、戦略としてはあまり良くありません。

なので、プレイリストに載せてもらう戦略だけではなく、広告を打って認知してもらうことも必要なのではないかと思います。

この動画では、1000ドル(およそ150,000円)をSpotify 広告に投資し、どのぐらい再生数が伸びるかを検証しています。 Spotify広告は日本で使おうとすると、「お問い合わせフォーム」の画面が出て、気軽に試すことができないのですが、ある方法を使うことで、この動画と同じようにSpotify広告を使うことができます。

それがVPNを使って海外のサーバーにつなぐ方法で、TunnelBearなどの無料VPNソフトを使えば、簡単にアメリカやイギリスに接続でき、自分の曲を海外にプロモーションすることができます ただし、日本向けに広告が出せない仕様になっているので、日本のリスナーを増やしたい方には向いていませんが、海外市場を狙って音楽制作をしている人にとっては役立つかもしれません。

動画では600ドルを費やして7,000ストリームを獲得していますが、この数字に「それだけお金をかけてたったそれだけ!?」と思われるかもしれません。この一回きりでは、Spotifyから収益を得たとしてもほとんど広告費を回収できないので大幅な赤字になるはずです。

それでも、この広告一回分でファンを獲得し、フォローしてもらうことで次のリリースを聴いてもらう機会を増やすことができるので、かなり長期戦になりそうですが、 ある程度初期投資として広告が出せる人は、この方法を試してみても良いかと思います。

🙋‍♂️Q&A

音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
マシュマロにて、お気軽にどうぞ。

🧠Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🗳️June Marieezy - Fly (FKJ Remix) - 個人的にめちゃくちゃ懐かしいYouTubeチャンネルLa Belle Musiqueから配信されている、((( O )))ことJune Marieezeの1曲。9年前の楽曲なので、ちょうどFKJが流行り出した頃でしょうか。素敵です。

📕Sound Design YURTA - IR - IRリバーブの作り方が書かれています。IRリバーブとは、コンボリューションリバーブに使われる種類のリバーブで、自分の部屋だったり、お気に入りのスタジオのIRを録音することで、リバーブとしてどんな音にも適用することができます。今年撮影の映画でこのテクニックを試してみようと考えていますが、アーティストの皆さんも自分のお気に入りのスタジオや部屋があれば、オリジナルのリバーブを作ってみると楽しいと思います。

👩🏻Utena Kobayashi × Dance × エムシリムセ@ウタサ祭り2023 - 小林うてなさんの独特な楽曲とパフォーマンスは本当に魅力的ですね。YouTubeで曲を漁っていたら、たまたま出てきたのですが、久しぶりに観入ってしまいました。

🗣️Ableton Max for Live (M4L) 入門講義 "環境構築とはじめの一歩" Kentaro Suzuki (AMCJ) @ Rittor Base - Kentaroさんという方の作るAbletonのプラグインがとても面白いので、最近フォローし始めました。彼のMax for Live入門講義があったので、Maxに興味がある方はぜひご覧になってみてください。

週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.58

2024年4月26日発行

Blog: https://studio-okina.com/

HP: isseykakuuchi.info