週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.56

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 今週の音楽ニュース

  3. DIYアーティストのためのマーケティング戦略

  4. 著書「AI時代の作曲術」先行公開

  5. Q&A

  6. Okina’s Picks

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

2日ほど前、TuneCoreからSpotifyの規約変更に関するメールが届きました。

このニュースレターをご覧になっている方はご存知だと思いますが、これからSpotifyでは1,000再生以下の楽曲にはロイヤリティが支払われなくなります。

これに反発する人もいるようですが、1,000再生以下だとロイヤリティがもらえたとしても微々たるものでしょうし、Spotifyは年間の利益をアーティストが再生回数に応じて山分けするシステムになっているので、「ちょっと曲作ってます」みたいなアマチュアの方に還元するくらいなら、Spotifyでしっかり活動していて再生回数も稼いでいるアーティストに分配する方が合理的かもしれませんね。

Spotifyがアーティストに支払う総額がこれまで通りなら、1,000再生以上稼いでいるアーティストの収入は今年から増えていくはずです。

なので、「Spotifyはアーティストを舐めてるのかー!」みたいな意見もありますが、それはちょっと違うのではないかと思いました。

この記事によると、2023年に20,000人以上のアーティストがSpotifyで50,000ドル(約700万円)以上を稼ぎ、50,000人以上のアーティストがSpotifyで16,500ドル(約250万円)以上を稼いだそうです。

Spotify長者って結構いますよね。

しかも、この数字は年々伸びています。

  • 2017年に少なくとも1万ドルを稼いだアーティストは23,400人、2023年に少なくとも1万ドルを稼いだアーティストは66,000人

  • 2017年に少なくとも10万ドルを稼いだアーティストは4,300人、2023年に少なくとも10万ドルを稼いだアーティストは11,600人

  • 2017年に100万ドル以上稼いだアーティストは460人、2023年に100万ドル以上稼いだアーティストは1250人

さらには、2023年に100万ドル以上を稼いだこれらのアーティストのうち、80%がヒットソングを1曲も持っていなかったそうで、爆発的ヒットを出さなくても、今の時代は音楽で1億円を稼げてしまうということになります。

確かにストリーミングはいろいろ問題のあるシステムだと思いますが、上手く使えばアーティストにとって、かなりメリットのある仕組みでもあります。システムをうまく使いこなし、使えなくなったら乗り換える。それくらいの気持ちで接した方が上手くいくかと思います。

📱今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
  1. Audiotonix、"STEAMパワー "DIY DJミキサー・キットを発表→最近DIYに興味を持って色々と調べたり買ったりしていますが、初心者にはなかなかハードルが高い!エンジニアを育てるプログラムの一環でAudiotonixがDIY DJミキサーの販売を始めましたが、このようなプログラムがもっと広まってほしいですね。一般販売されていないようですが、とりあえずホームページから登録しておきました。

  2. Amazon Music For Artists Hype Deck:この新しいツールであなたの音楽のリーチとインパクトを最大化するための決定版ガイド→自分の音楽を効果的に宣伝するには世界最大のシェアを誇るSpotifyを活用するのが一番ですが、マーケットシェアで世界第4位のAmazon Musicも無視できません。ピッチ機能や新しいHype Deck機能も活用し、効率的にファンにリーチしていきましょう。

  3. Stability.AIが「Stable Audio 2.0」をリリース - 3分間の出力が可能に→Suno AIに比べればまだまだですが、プロンプトの読み取り精度が高く、リファレンス楽曲も入れられるので可能性を感じます。今後のアップデートに期待ですね。

  4. 「AI音楽の新基準」:SoundationのGennie、オンラインDAWにテキストからオーディオへの自動サンプル生成を導入→ プロンプトから、音楽だけでなくサンプルまで作れるようになりました。 実際に使ってみましたが、そこまで精度が高くないので、まだSpliceやLoopcloudを使った方が良いと思います。

  5. TechivationがAI搭載プラグインをリリース:AIラウドナー→ 特定の状況でうまく機能しない従来型のDSPプラグインの問題を解決するため、 機械学習によるアプローチを取り入れたAIプラグインの第一弾とのこと。 今はとにかく、説明や名前にAIと言う文字を入れておけば 注目される時代なので、 本当に良いプラグインかどうか見分けるのが難しいですね。

📘著書「AI時代の作曲術」先行公開

いま書いているAI作曲の本の一部を、ニュースレターの読者である皆さんだけに、ちょっとだけお見せいたします。(内容は出版時に変更される可能性があります)

今週から、AIを使った制作手順の章をちょこっとお見せします。

##1. 作りたいジャンルのリサーチ

まずは、作りたいジャンルについてのリサーチです。この手順は飛ばしても大丈夫ですが、以下のような悩みや疑問があれば、ChatGPTなどの対話型AIを使い、イメージを明確にしてから進むと制作がスムーズになります。

- 作りたいジャンルはなんとなく決まっているけど、どうやって作れば良いかわからない

- 新しいジャンルに挑戦したいので、そのジャンル特有の制作方法や使われている楽器が知りたい

対話型AIはChatGPT、Claude、Geminiなど、次々と新しいものがリリースされるので、AIの精度は時期によって異なります。その時々で、評価の高いサービスに登録して使いましょう。

さて、具体的な対話型AIの活用法について説明します。例えば、Amapiano(アマピアノ)と呼ばれる最近話題のジャンルで1曲作りたくなったとします。まず、以下のような質問をAIに投げかけてみてください。

- Amapianoって何?

- どんな楽器が使われているの?

- どこで流行っている音楽?

- 曲の特徴は?

- 代表曲を聴きたいのでYouTubeのリンクを教えて

加えて、以下のような質問を通じて、より深い理解を得ることができるかもしれません。

- Amapianoの歴史や起源について

- Amapianoに影響を与えたアーティストや楽曲について

- Amapianoで使われる音楽理論やコード進行について

- Amapianoで使われる音楽制作ソフトウェアやプラグインについて

- Amapianoのサブジャンルや関連ジャンルについて

- Amapianoのカルチャーや背景について

最新の情報や具体的な情報については、対話型AIでも出てこない場合があります。そんな時は、以下のように伝えて、記事を探してもらうのも一つの手です。

- Amapianoで使われるシンセについて詳しく知りたいので、このことについて書かれた記事を探してください。

実際、自分でGoogle検索した方が速い場合もあるのですが、「なんとなくでいいからAmapianoの概要を知りたい」ということであれば、対話型AIを使ってサクサク質問していく方が速い場合もあります。使っていくうちに、何を対話型AIに頼んで何を自分で検索すれば、欲しい情報に素早く辿り着けるかがわかってくるでしょう。

また、対話型AIを使ってリサーチする際は、質問の仕方にも工夫が必要です。曖昧な質問ではなく、具体的で明確な質問を心がけましょう。例えば、「Amapianoジャンルの特徴を教えてください」という質問よりも、「Amapianoジャンルの特徴的なリズムパターンや、ベースラインについて教えてください」という質問の方が、より具体的で有益な情報が得られます。

余談になりますが、対話型AIは、音楽制作だけでなくあらゆることに活用できるので、今のうちから慣れ親しんでおくことをおすすめします。AIは質問の仕方によって得られる答えが大きく変わるので、AIへの正しい質問の仕方を知らなければ、「なんだ、AIってこの程度か」となってしまい、とてももったいないです。

音楽ジャンルに関する質問一つとっても、「あなたは⚪︎⚪︎というジャンルの専門家です。」という前置きをするだけで、AIが張り切って、専門家のように答えてくれたりします。

ここでちょっとネタバレになりますが、どういった感じでプロンプトを工夫すればよいのかという例をお見せします。

僕は普段、ブログなどの文章を書いていますが、よくAIに校正してもらっています。

ただ、AIに「この文章を校正して」と言っても、ちょっと句読点を打ってくれたりするくらいですが、例えば次のように細かい指示を与えると、AIはこちらの望んだ通りの答えをくれます。

細部までこだわるコピーエディターのように振る舞ってください。

これからブログ記事、ニュースレター記事、マーケティングメールなどの長文テキストを提供します。

そして、その文章を以下のように分析してください:

1. 構造

- 論理的な順序と一貫性について、実用的なフィードバックを提供してください。

- おすすめの改善点の例を提示してください。

2. 内容

- 具体性、視点、読者に価値を与える方法などを改善する機会を特定してください。

- ヒント、理由、間違い、教訓、例、ストーリー、リサーチ、またはその他の即効性のあるコンテンツのアップグレードを使用してテキストを強化し、読者にとってより価値のある魅力的なテキストにする方法について、実行可能なフィードバックを提供してください。各選択肢の論理を説明すること。

- 推奨される改善点の例を示してください。

3. 文法

- 綿密な文法分析を行ってください。

- スペルミスを強調してください。

- 不完全、駆け足、複雑、または紛らわしい文章を強調してください。

このように細かい内容のプロンプトを打つことで、その一つ一つに丁寧にAIが回答し、実用的なフィードバックをくれます。文章を書いていて、「なんか文章が変だな」「もっと良い言い回しや、文章構造がないかな」と悩んでいるところに、ササッと明確な答えを与えてくれるので、とても助かっています。

AIはうまく使えば最高のパートナーになり得るのですが、彼らはインターン生のようなもので、まだ仕事を始めたばかりで、気が利かず、先回りしてこちらの想像以上の答えを与えてくれることはありません。なので、上司であるあなたは、指示の一つ一つを丁寧に伝えることで、インターン生であるAIは誠意を持って答えてくれるでしょう。

そんなイメージで、対話型AIとの会話を楽しんでみてください。

さて、ちょっと話が逸れましたが、作りたいジャンルについての理解が得られたら、次は参考楽曲をもとに、楽曲の具体的なイメージを膨らませていきましょう。

###ジャンルのリサーチに使えるAI

- ChatGPT - 元祖対話型AI。プラグインが充実していて、最新の検索結果にも対応している。

- Claude - 検索データが少し古いが、バージョンによってはChatGPTよりもIQが高い。

- Gemini - Googleの対話型AI。

📊DIYアーティストのためのマーケティング戦略

音楽で稼ぐにはどうすればいいのか?どのようにリリースするのが効果的なのか?DIY(インディペンデント)アーティストが、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらう方法を探っていきます。

先週、久々にダンスミュージックをリリースしましたが、自分でも気に入っている曲なので、いろんなアーティストに送ったり、SubmitHubに提出したりしてみました。

いくつか手応えがあって、SubmitHubでは週間リスナー300人ほどのプレイリストに2つ載せていただき、SoundCloudで好きなアーティスト10人ほどに曲を送りつけた結果、「うちのレーベルからも出してみないか」といったお返事もいただきました。

曲のストックが貯まれば、インスタ広告などを打つことも考えていますが、SubmitHubやSoundCloudだけでもそれなりにプロモーションができるので、まずはSubmitHubでSpotifyのプレイリスト入りを目指してみるのが、多くのアーティストにとって適切な戦略なのではないかと思いました。

そして今後、インスタ広告を打つときは、こちらを参考にしてみようと思っています。

月に1,000万円をSpotifyで稼ぐ彼は、レーベルを介さず自分でリリースを行なっているため、莫大な利益を上げることに成功しています。

音楽がいいのは大前提ですが、インディペンデントの場合、やはりプロモーションにも結構お金をかける必要があります。彼は1曲あたり150ドル、つまり3万円近くの広告費をかけ、それの結果が良ければさらに費用をかけていたそうです。

音楽ビデオのリリースと一貫性のあるコンテンツ制作に注力し、ターゲットを明確にするのも大切とのこと。

自分の音楽によほど自信がないと、ここまで予算をかけるのは難しそうですが、一つの目安にはなりますね。

僕もアルバムが出せるくらい曲が貯まったら、インスタ広告を試してみることにします。自信のある曲やアルバムをすでに持っている方は、インスタ広告も試されてみてはいかがでしょうか。

🙋‍♂️Q&A

音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
マシュマロにて、お気軽にどうぞ。

🧠Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

📗Book: Ears To The Ground: Adventures in Field Recording and Electronic Music - 6月にDJ Magの編集者による、フィールドレコーディングを活用しているアーティストへのインタビュー集が発売されます。洋書ですが、気になるので買ってみます。

🎸Live Performance: Glass Beams - 'Mahal EP' (Full Live Performance) - Mahal EPのリリースが近いGlass Beams、彼らのライブセットが公開されています。先行公開されたMahal以外の楽曲も、かなりいい感じ!

🔈Speaker: 世界初Snapdragon Sound™️対応ポータブルスピーカー Cear pavé シーイヤーパヴェ - このスピーカー、聴いてみたくてたまりません。たまたま本社が家の近くだったので、今月中に聴きに行く予定です。

🧖‍♀️Research: 音楽を体のどの部位で感じているのか? 東大と広島大が500人以上で検証 - 高周波は皮膚でも感じていると聞いたことがありますが、音は腹部や心臓でも聞いているみたいです。クラブやライブハウスに一度でも行ったことのある人は、音楽は耳だけで聞くものではない、というのはよく理解していると思います。

週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.56

2024年4月12日発行

Blog: https://studio-okina.com/

HP: isseykakuuchi.info