週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.55

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 今週の音楽ニュース

  3. 作曲とミキシングのアイデア帳

  4. 著書「AI時代の作曲術」先行公開

  5. Q&A

  6. Okina’s Picks

  7. ブログ更新のお知らせ

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

ちょうど今日、ohme名義で一作品リリースしました。この名義では、普段レーベルからリリースしてもらっていたのですが、今回はセルフリリースしてみます。SubmitHubを使って、プレイリスト入りも目指してみますね。

さて、先週も少し紹介しましたが、毎年恒例のIFPIグローバルレポートが発表されました。

2023年の売上総額は、IFPIが初めて世界の音楽収入の集計を開始し、売上総額が222億ドルに達した1999年以来の高水準だそうです。

中でもストリーミングの売り上げがほぼ半分を占め、CDやレコード売り上げも、わずかながら増えています。CDやレコードなどのフィジカルが売れているのは、K-POPファンも大きく影響しているようですね。

それもそのはず、アーティストランキングでは1位こそテイラースウィフトですが、2位と3位には韓国のアイドルグループSeventeenとStray Kidsがランクインしており、世界的な韓国アイドル人気がうかがえます。

ストリーミング売り上げは年々伸びているとはいえ、伸び率は下がってきているので、あと数年くらいで止まってしまう可能性もあります。去年から作曲AIが急激に進歩していることもあり、これからの数年は音楽業界に大きな変化が訪れそうですね。

レポートには、他にも音楽ビジネスに関する様々な調査結果や、アーティストインタビューが載っているので、気になる方はぜひチェックしてみてください。

📱今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
  1. AIテキスト・トゥ・ミュージック・ジェネレーター "SunoAI "が2分までの曲を無料で作成可能に。→最近バージョン3も出て、生成の精度にさらに磨きがかかっているSunoAI。僕も毎日使ってますが、そろそろステム吐き出しに対応していただきたいところです。

  2. ストリーミングとレコードが引き続きRIAAの収益記録を牽引→レコードの売り上げは、なんと17年連続で伸びているそう。ダウンロードの売り上げは下がり続けていますが、ストリーミング市場とレコード/CD市場はいまも伸び続けています。

  3. ユニバーサルミュージック、TikTok紛争の中、Spotifyとのパートナーシップ契約を拡大→ユニバーサル(UMG)が、Tiktokからテイラースウィフトなどの曲を含む大量の音楽を削除した一件。UMGがSpotifyとの連携を強化したとのことですが、UMGはメジャーアーティスト寄り、Tiktokはインディーズアーティスト寄りのプラットフォームとしてそれぞれの道を歩んでゆくのでしょう。

  4. TIDALサークル:アーティスト同士がお互いを高め合う新スポット→TIDALが、アーティスト版Redditのような場所を作りました。TIDALは、Jay Zが旗を振ったプロジェクトだけあって、他の音楽サブスクにはない面白い機能を色々と展開していますね。

  5. Lunacy「BEAM - インタラクティブ・エフェクト・プレイグラウンド」を発売→Output「Portal」みたいな面白いエフェクトプラグインが登場。求ラニュラーエフェクトやモジュレーションを使って、あらゆる楽器にスパイスを与えます。

📘作曲とミキシングのアイデア帳

作曲やミキシングが上達するための、動画・記事・アイデアをご紹介します。

EQが先かコンプが先か?結局どっちが正しい?

DTMのブログやYouTubeを見ていると、「コンプの前にEQをかけろ」「いやEQの前にコンプをかけろ」といった 意見をよく見かけます。僕はカット方向のEQはコンプの前にかけることが多く、ブースト方向のEQはコンプの後にかけることが多いです。

一概にどちらが正しいとは言えないこの問題ですが、YouTubeで役立ちそうな動画が出ていたので紹介します。

彼は、EQをコンプの前にかけることは、 その楽器のどの周波数帯域にコンプをかけたいかというトリガーとなる周波数を決める行為、 EQをコンプの後にかけることは原音の雰囲気を活かしつつ、 トーナルバランスを整える行為だと言っています。

彼自身は、多くの場合、EQを先にかけてから、コンプレッションをかけているようですが、音色を変えずにコンプレッサーの反応を変えたい場合は、コンプレッションを先にかけてからEQをかけることもあるそうです。

どちらにせよ、EQとコンプを使ってどのような音にしたいか、という明確なイメージができていなければ、ただ闇雲にEQやコンプをかけても意味がないと言えるでしょう。

仕上げたい音のイメージを明確にし、状況に応じて、EQとコンプの順番を決めることが 大切です。

📘著書「AI時代の作曲術」先行公開

いま書いているAI作曲の本の一部を、ニュースレターの読者である皆さんだけに、ちょっとだけお見せいたします。(内容は出版時に変更される可能性があります)

今回は「実際に曲を作ってみよう」の章から、SunoAIを使った作曲方法をお届けします。

## Suno AIを使ったAI作曲

AI作曲は、ただ学んでいるだけではその魅力を十分に感じられないかもしれません。そこで次は、実際にAIを使って曲作りを体験してみることにしましょう。今回取り上げるのは、2023年末にデビューした「Suno AI」というツールです。このツールは、短い指示を入力するだけで、誰でも瞬時に曲を作成できるというもの。音楽制作が初めての方でも、このサービスを使えばすぐにオリジナル曲を手に入れることができます。

Suno AIは、 通常の音楽制作ソフト(DAW)のように複雑な要素は一切なく、音楽制作の経験がない人でも直感的に操作できるように設計されています。

まずは、Suno AIのウェブサイトへの訪問し、"Make a Song”セクションから"Create"ページへ進むことで、作曲ページに進みます。曲の説明を入力するフィールドがあるので、ここに簡単なプロンプトを打ち込めば、AIが即座に曲作りを始めてくれます。プロンプトには、曲のジャンル、雰囲気、テーマなどを指定することができ、これらの情報をもとにAIが最適な音楽を生成します。

また、「Random」ボタンを使えば、AIがプロンプトを提案してくれるオプションもあります。 プロンプトが全く思い浮かばない人は、一旦Randomボタンでプロンプトを生成し、それを編集するのも良いでしょう。

カスタムモードでは、歌詞の入力も可能です。歌詞を生成してくれるのは楽でいいのですが、よりオリジナリティを追求するために、ここではChatGPTを活用して独自の歌詞を作成してみましょう。

##歌詞はChatGPTで

ChatGPTは、音楽制作の初心者でも簡単に歌詞を作成できる強力なツールです。利用回数に上限はありますが、無料版でも十分に機能します。あなたが望むジャンル、歌詞のテーマ、曲の長さを入力するだけで、ChatGPTがアイデアを形にしてくれます。特に、ユニークで斬新な曲のコンセプトを探求するときに、ChatGPTの真価が発揮されます。何か普通とは違う、斬新な曲のコンセプトをChatGPTに伝えてみましょう。

観葉植物の月への旅

- 成長: 家で育てていた観葉植物が、成長しすぎて月まで届く。

- 旅の始まり: 植物を育てていた人(宇宙飛行士を目指す少年)が、植物を登って月へ旅行を決意。

- 背景と感謝: 月旅行は、少年に日頃から愛情を注いで育てられた観葉植物からの恩返し。

おかしなコンセプトなので、これをもとに人間が歌詞をつくるのは大変そうですが、ChatGPTならどんな無茶にも丁寧に答えを出してくれます。

ChatGPTから出てきたのは、以下のような歌詞です。

タイトル:月への梯子

[Verse 1]

小さな種から始まった夢

部屋の隅で、静かに育つ

毎日水や愛情を注ぎ

見守る日々、心は膨らむ

[Pre-Chorus]

一葉一葉、力強く伸び

届かぬはずの、月を目指して

「僕ら一緒に行こう」と囁くように

葉を広げて、空へと伸びていく

[Chorus]

月へ続く梯子を登る

宇宙飛行士の夢、肩に乗せ

途中で出会う、奇跡の果実たち

空腹満たし、旅は続く

中略

[Chorus]

月への梯子、一歩一歩

愛情を胸に、夢を追いかけ

果実を食べ、空腹を越えて

月への旅路、僕らの物語

[Outro]

月の上で、地球を見つめ

達成感に胸が満たされる

植物と僕、夢を共にした

この旅路は、永遠に続く物語

実際に作ってみると、3番まである壮大な歌詞が出来上がってしまったので、一部省略しました。

めちゃくちゃな設定でお願いしたにも関わらず、夢への旅立ちと植物との深い絆、そして達成感を見事に表現しています。

もちろん、提案された歌詞をそのまま使うこともできますが、細部を調整したい場合は、ChatGPTとの会話を通じて修正することも可能です。最終的に完成した歌詞は、Suno AIのlyric欄にコピペすることで、曲に反映されます。

このようにAIツールを組み合わせることで、音楽制作の敷居がグッと下がります。

これが最も簡単にAIで音楽を作るための方法ですが、SunoAIは楽器を指定したり、構成の一部を変更したりといった調整ができないので、本格的な作曲には向いていません。

では現状、こういった自動作曲AIはどんな場面で使えるのでしょうか。

##自動作曲AIツールの活用例

ここまで紹介したような自動作曲AIは、本格的な作曲よりも、趣味程度の作曲や特別なイベントに向けた作曲に適しています。そのようなイベントとしては、結婚式や友人の誕生日などが挙げられます。

これまでなら、動画をプレゼントすることはあったかもしれませんが、オリジナル曲を作ってサプライズするには、音楽制作、歌詞作成、ボーカル録音など、様々な作業が必要だったため、ごく一部の人しかできなかったと思います。しかし、先ほど紹介したSunoAIとChatGPTを組み合わせることで、結婚式の場合だったら、新郎新婦の馴れ初めや2人の出会いをストーリー仕立てにした歌詞を付けたり、友人の誕生日に友人とのエピソードや友人への感謝の気持ちを綴った世界に1つだけのオリジナルソングをプレゼントする、といったことが簡単にできるようになります。

作曲というと特別な印象がありますが、現在ではスマホで写真を撮ったり動画を編集したりするのと同じような感覚で曲を作ることができます。SunoAIなどのAI作曲ツールは、まだ音楽に興味がある一部の人にしか広まっていませんが、実はAdobeの動画編集ソフトやTikTokなどのSNSに、AIを活用した作曲機能が導入されつつあります。これらの事例からも、今後は誰もがAIを使って簡単に作曲するようになることは確実でしょう。

また、簡易作曲ツールのもう一つの使い道として、SunoAIのような高品質なAIを活用することで、月に数万円から数十万円の収入を得られる可能性もあります。これについては、「AIを使ってお金を稼ぐ方法」の章で紹介しています。

🙋‍♂️Q&A

音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
マシュマロにて、お気軽にどうぞ。

🧠Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🎬Interview: How 'Oppenheimer' Oscar Winning Composer Ludwig Göransson Created 'Can You Hear The Music? - ノーランの最新作オッペンハイマーが公開されたので、早速、観に行きました。相変わらずLudwig Goranssonの音楽は素晴らしいですね。終始音楽が流れていて、音楽が背景のように馴染み、物語の一部として溶け込んでいました。

💡Tutorial: get the most out of life - XLN Audioの新製品、Lifeのチュートリアル動画。 Lifeを少しずつ自分の制作に取り入れ始めていますが、まだ完全に使いこなせていないので、こちらの動画で研究してみようと思います。

🎹Plugin: Trance Gate - こういうゲートプラグイン探してたんですよね。無料なので、早速使ってみます。

🎙️Album: The Best Field Recordings on Bandcamp: March 2024 - フィールドレコーディングとともに、その作品の制作背景なども書かれています。それを読みながらレコーディングを聴くと、小説を読んでいるようで面白いです。

📝ブログ更新のお知らせ

Universal Audioのプラグインを好んで使うのは、アナログ好きで機材に詳しいおじさん世代だと思いますが、 ここに来て、DTM初心者または若い層を取り込もうと、UAが新しいコンセプトのプラグインを投入してきました。

Verveは、ノブをひねるだけで、簡単にアナログの歪みが得られるプラグイン。

実際に使ってみましたが、これまでのUAプラグインに比べるとかなりわかりやすい派手な効き方をします。マスタリングのような精密な作業には使えませんが、 積極的な音作りに活用できそうです。

週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.55

2024年4月5日発行

Blog: https://studio-okina.com/

HP: isseykakuuchi.info