週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.54

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 今週の音楽ニュース

  3. 作曲とミキシングのアイデア帳

  4. 著書「AI時代の作曲術」先行公開

  5. Q&A

  6. Okina’s Picks

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

今週、新しいSpotifyアーティストアカウントを作成しました。これはAIで生成した3分程度のアンビエント曲を毎日アップロードし、どのような反応があるかを試してみようと思ったからです。

AIを活用すれば、Spotifyに転がっているようなシンプルなアンビエントサウンドを容易に作曲できます。そこで、毎日新曲を制作し、Spotifyの「ピッチ」機能を使ってプレイリストへのピッチを考えました。ところがSpotifyでは、ピッチされた曲がリリースされるまで次の曲をピッチできません。通常、Spotifyのプレイリストに載りやすくするためには、1ヵ月前からピッチ をした方が良いのですが、これだと年間12回しかピッチすることができません。

一般的に、プレイリストに曲が掲載されることで再生回数が大幅に増えるのですが、ファンベースがない場合、プレイリストに載らなければ再生はほとんど伸びないでしょう。曲をピッチせずにプレイリストに載る事は可能なのか?ここら辺はやってみないとわからない部分でもあるので、数ヶ月様子を見ながら、この方法でひたすら曲を作ってアップロードしてみようと思います。

一方で、僕が心から好きな曲を作っている、もう一つのアカウントがあるのですが、こちらはピッチ機能を活用しつつも、単に曲をリリースするだけでなく、プレイリスターの好みに合わせた作曲も行い、SubmitHubなどを活用してプレイリスト入りを目指します。心から自分が愛せる曲を作っていくのは大切ですが、多くの人に耳を傾けてもらわなければ意味がありませんからね。

最後に3つ目のアカウントでは、たまたまバズって月間1万人のリスナーがいるので、こうしたリスナー層を維持するため、1年で丁寧にアルバム1作品分の曲を作るくらいのペースで活動していこうと思います。どの方法が当たるかはわかりませんが、今年は、この3つの方向性で作曲活動に取り組んでいくことにします。

📱今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
  1. https://ifpi-website-cms.s3.eu-west-2.amazonaws.com/GMR_2024_State_of_the_Industry_53c7eb914a.pdf→毎年恒例のIFPIレポートが発表。こちらは無料で見れる簡易版ですが、現在の音楽業界の動向を知る上での最重要レポートですので、気になる方はぜひチェックを。

  2. ローランドとUMG、音楽におけるAI活用の新原則で提携→ローランドとUMGが「AIを積極的に活用しつつ、人間らしさを大事にして音楽作ってこうぜ」という声明を発表。AIの脅威を感じながらも、AIを活用しないと生き残れないというメッセージでしょうね。

  3. Roar:Live 12に登場したフラッグシップ・デバイス→ノーマークでしたが、Live 12に良質なサチュレーションが追加されています。サチュを時間変化させられる、アナログを意識した作りは面白いですね。

  4. 新しいAIベースのバーチャル・インストゥルメント「Combobulator」は、倫理的に調達された「Farm To Table」アーティストの頭脳を搭載している。→「AIスタイル・トランスファー」という新たなジャンルの音楽AIが登場。ドラムループで試してみましたが、AIで学習させたアーティストっぽい音に変化します。これが買う価値のあるプラグインかはわかりませんが、この技術が進めば、好みのアーティストのテイストでオリジナルサウンドが作れるということですね。

  5. ACE Studio→Kits.AIなどボーカルクローニングのAIはいくつかありますが、これはボーカルデータをMIDIに変換して、細かく編集できるようです。こういったサービスってそんなに需要あるんですかね?アーティスト界隈ではなく、Tiktokなどが買収し、SNSで広く使われていくような気がします。

📊DIYアーティストのためのマーケティング戦略

音楽で稼ぐにはどうすればいいのか?どのようにリリースするのが効果的なのか?DIY(インディペンデント)アーティストが、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらう方法を探っていきます。

He Makes $240,000 from Spotify Every 30 Days

ストリーミングで1ヶ月3,000万円以上を稼ぎだす男、Connor Priceの要約動画。

気になった箇所は、

  • 一日に60,000以上もの曲がSpotifyにアップロードされている

  • SNSで大切なのは視聴者を楽しませること、曲を売り込むことではない

  • とにかくやってみる、うまくいけばそれを継続する

の3点です。

まず、Spotifyには毎日膨大な数の曲がアップロードされていることを再認識しました。1日にこれほど多くの新曲が投稿されているのであれば、ただ曲をリリースするだけでは誰にも聴いてもらえないでしょう。

動画の中で紹介された夫婦は、SNSでの戦略的な活動が成功のカギとなったようです。夫はTikTokに対して当初は「ダサい」と乗り気ではありませんでした。しかし、妻の支援もあり、TikTokで爆発的な人気を博すことになったのです。

地球儀を回して、指が止まった国のアーティストとコラボするという企画が功を奏し、ヒット動画となりましたが、大切なのはこの企画自体ではありません。いろんな企画をとにかく試してみて、ヒットすればシリーズ化などして次に繋げるという戦略が大切とのこと。

またSNSでは曲を売り込むよりも、視聴者を楽しませることに焦点を当てた方が上手くいくと言います。確かに、SNSで一方的に曲を宣伝しても、誰も興味を持ってくれないでしょう。コンテンツが楽しければ、視聴者は自然と音楽にも興味を持ってくれるということですね。レーベルに所属しない個人アーティストにとって、SNSを含むマーケティング活動は不可欠ですが、彼らのように、まずは視聴者を楽しませるという視点で取り組むのは素晴らしいアイデアだと感じました。

📘著書「AI時代の作曲術」先行公開

いま書いているAI作曲の本の一部を、ニュースレターの読者である皆さんだけに、ちょっとだけお見せいたします。(内容は出版時に変更される可能性があります)

前回の続きです。

他の人と被らないAIアートワークを作るには

どんなサービスにもそれぞれのキャラクターが存在します。例えば、ChatGPTに内蔵されているDALL-Eで作った画像は、どうしても「DALL-Eっぽい」画像に仕上がってしまいます。この傾向は当分変わらないでしょうから、他との差別化を図るなら、以下の3つの方法が効果的です。

1. 他の人が使っていない画像生成サービスを使う2. プロンプトエンジニアリングについて学ぶ3. ChatGPTなどの会話型AIと一緒にプロンプトを突き詰めていく

それぞれについて詳しく見ていきましょう。

画像生成サービスによって差が出るということは、人があまり使っていないサービスを使うことで、他の人とは一味違った画像を作れる可能性があります。ただし、使う人が少ないサービスは画像生成の精度が低いから、もしくは似たような画像ばかりが出てくるからといった、ネガティブな要因があるからかもしれません。

そこで、プロンプトエンジニアリングを学び、MidjourneyやDALL-Eなどの人気サービスを使うのが、クオリティの高い独創的な画像を作るための最も良い方法となるでしょう。

プロンプトエンジニアリングとは、AIに適切な指示を与えることで、望む結果を得るためのテクニックです。例えば、「ダリの絵に出てくるような時計」と書くよりも、「シュールレアリズムの画家ダリ風の、砂漠に佇む溶けた時計」といったプロンプトを与えた方が、より具体的で独創的な画像を生成できます。

YouTubeやGoogleの記事を検索すれば、どのようなプロンプトを打てば最適な答えが出てくるのかを研究している人たちの成果を見ることができます。最近はAIブームなので、有料のセミナーなども頻繁に開催されています。

そういったセミナーに参加して実践的な知識を身につけるのも一つの方法ですし、狙った画像を作るためのプロンプトをそのまま公開している人たちもいるので、そういった人々を探して参考にするのも良いでしょう。

プロンプトエンジニアリングを学ぶもう一つの方法が、ChatGPTなどの会話型AIを活用することです。

ChatGPTとの対話を重ねることで、ユーザーの頭の中にある曖昧なイメージを具体化してくれます。

例えば「海辺の風景画を作成したいです」と尋ねれば、

「海辺の風景画を作成するには、以下のようなプロンプトがおすすめです。『白い砂浜と青い海、ヤシの木が連なる南国のビーチ』『荒波が打ち寄せる岩場に立つ赤と白の灯台』など、具体的な情景を想起させる言葉を使うとよいでしょう。他に希望はありますか?」

と、このように、ChatGPTからのアドバイスが返ってきます。これを繰り返すことでプロンプトを洗練させていくことができます。

「わざわざセミナーに行ったり、有料のニュースレターをみるくらいなら、もっと自分の曲を作ったり、他のことに時間を使いたい!」という人も多いでしょうから、こうやってAIと一緒にプロンプトを考えていくのが良いと思います。

🙋‍♂️Q&A

音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
マシュマロにて、お気軽にどうぞ。

Q.1

はじめまして!メルマガいつも愛読させていただいてます!

とてもためになる情報を、いつも有難うございます。

2021年に最初のリリースをしました。

お時間のある時で構いません、聴いてもらえるとすごく嬉しいです。

自分的には、海外の人に聴いてもらうことが夢なんですが、 その場合、オススメのディストビューターはありますか?

今は、上記の2つはTunecore にしてますが、もう全然ダメダメで  年会費のほうが高くついてます。笑

最近は、BIGUP!の年会費無料のコースにしています。

あと、やはりスポティファイ(カタカタですみません!)のほうが、 Apple Music より広がりやすいでしょうか? ジャンルにもよりますかね?

曲のアドバイスもいただけると、嬉しいです。

ミックスがうまくできなくて、悩み中です。

なにとぞよろしくお願いします!

A1.

いつもお読みいただき、ありがとうございます!

リリースお聴きしましたが、最初に「ライブパフォーマンスを見てみたい!」と思いました。日本の伝統音楽を取り入れたオリジナリティあふれる音楽も作ってらっしゃるので、ミックス含め、十分世界中の人に聴かれてもいいくらいの音楽だと思いますけどね。

やはり「Spotifyで聴かれやすい音楽」というのがあるので、無理にストリーミングで攻めなくても世界に出るチャンスはあると思います。

僕の大好きなアーティストでSugai Kenさんという方がいます。彼はSpotifyで月間4,000人くらいの再生数しかありませんが、ここ数年でだんだん認知度が上がってきているようで、何年か前はヨーロッパツアーで何ヵ国も回られていました。昔はもっとダンサブルな曲を作っていたようですが、今は日本の伝統音楽を取り入れた独自のサイケデリックでディープなトラックを作り、ライブパフォーマンスもされています。

なので、ストリーミングは放っておいて、ライブ重視で活動するのもアリなんじゃないかなと思いました。(勝手にライブ推ししてますが、興味がなかったらすみません!)

もしストリーミングで頑張るなら、基本はSpotifyを攻略する方向で動くべきだと思います。ストリーミングで稼いでる人で、SpotifyよりApple Musicの方が稼いでいるという人はあまり聞きませんので。TuneCoreはリリースごとにサブスク料が増えていくので、大変ですよね。僕はDistrokidを使っていて、これはいくらリリースしても料金は固定なのでおすすめです。日本ではなく海外に売り出したいなら、なおさらTuneCore Japanに登録する意味はあまりないでしょう。

音楽は素敵ですが、どうしても音楽の性質上、ストリーミングで伸びるイメージが湧かないので、やはり別の方法で伸ばすべきだと思いますね。Soundcloudを活用する、Hypeedditを使う、海外のブログや記事に取り上げてもらう、MVを制作する・・・色々あると思いますが、今週の「DIYアーティストのためのマーケティング戦略」でも取り上げたように、毎日60,000曲以上もの曲がアップロードされるわけなので、曲をアップしただけでは絶対に誰にも聴かれません。

僕は何年か前、自分で作った曲をいろんなアーティストにとにかく送りまくっていた時期がありまして、いろんな偶然から、話がうまく転がって著名レーベルからリリースできた経緯があります。

いい回答が出せず申し訳ないですが、この時代、とにかくいろんなアプローチを仕掛けてみることが大事だと思います。偉そうに言ってますが、僕もこれからいろいろ仕掛けて多くの人に聴かれるよう頑張ります。一緒にチャレンジし続けましょう。

🧠Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🎙️Interview: 【SUKISHA】音楽って実際稼げるの?アーティスト活動のリアル - THE REAL TALK - Spotifyなどのストリーミングサービスで1,000万円稼いだという日本人アーティスト。ここ数年で、Spotify長者が増えてきてますね。

👩🏻‍🎤Singer: SUN - 星野源 (弾き語り) cover - すごく好きな歌声です。ビジュアルも良いので、あまり登録者が多くないのが不思議なほど。

🎨Art: I heard you like polyrhythms - ピアノロールすら作品の一部にしてしまう才能に、思わず嫉妬しました。

🔈Speaker: ダイソー ミニスピーカー - ダイソーのスピーカーだからと言って舐めてはいけません。値段以上の音が鳴るので、仕事で使うことにしました。

週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.54

2024年3月29日発行

Blog: https://studio-okina.com/

HP: isseykakuuchi.info