週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.53

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 今週の音楽ニュース

  3. DIYアーティストのためのマーケティング戦略

  4. 著書「AI時代の作曲術」先行公開

  5. Q&A

  6. Okina’s Picks

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

今週は、数ヶ月ほど登録したまま放置していたSoundCloud Next Proのアカウントを、有効活用できないかと調べていました。

SoundCloudに有料登録すると、Fan Powered RoyaltyというSoundCloud内で収益化できるツールにアクセスできるようになります。これはSoundCloud内で音楽が再生されたりリポストされるとアーティストに収益が入るような仕組みです。

この仕組みは、一番手頃なプランだと400円ほどで利用できるので、使わない手はありません。

SoundCloudにもディストリビューションサービスがあるので、直接SpotifyやApple Musicに配信できるのですが、SoundCloudの有料サービスをいつまで使うかわからないし、調べてみてもSoundCloudのディストリビューションを使っている人が少なかったので、引き続きDistrokidで配信することにしました。

ISRCという楽曲認識番号を打ち込めば、Distrokidで配信しているものをSoundCloudでも配信してマネタイズできるようになります。

この方法で、SoundCloudでどのくらい稼げるのか検証してみたいと思います。再生回数が伸びるかどうかはわかりませんが、収益化の可能性を探ることで、音楽活動の新しい道が開けるかもしれません。

📱今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
  1. カライドのコラージュ2.0は、音楽制作から技術的なことを取り除こうとしている→ディレイやモジュレーションなど数十種類のエフェクトを搭載した、新プラグインが紹介されています。最近は、ビンテージ機材のエミュレートや良い音を追求した小難しいプラグインよりも、ユーザーフレンドリーでシンプルかつ使いやすいプラグインが流行ってきていると感じます。音楽制作をする人が徐々に若者に移り変わり、高くて使いにくいプラグインが売れなくなってきているのかもしれません。

  2. EuphoniaがAlphaThetaとルパート・ニーブ・デザインズの夢のコラボレーションである理由→MasterSoundやUnion Audioといったメーカーのロータリーミキサーを意識しているであろう、Pioneerの新しいDJミキサーが登場。Pioneerのデジタル回路にNeveのトランスを入れることで、デジタル臭さを取り除き、流行りのアナログサウンドに仕上げています。これまでのPioneerミキサーの中で、一番音が良いとの声もあります。気になりますね。

  3. "将来、あなたはSpotifyに行き、ビートルズとビートルズのAIを見るだろう":リック・ベアトがAIへの懸念を語る→このインタビューで興味深いのは、「カントリーとロックは人気が上昇し、ヒップホップはここ4年ほどで人気が下降している。」という点です。「ギターのようなオーガニックな楽器を使った曲が多くなってきている。オートチューンが減って、プログラムされたビートが減っている」とのことで、DJミキサーに加えて、音楽面でもアナログ回帰が進んでいるように感じます。

  4. Viscoは、グーのように音をつぶすことができる歪んだドラムマシンです。→AbletonとTeenage Engineering のベテランが立ち上げた新会社Forever 89が、初のプロダクトを発表しました。ドラムをシンセサイズしたり、モーフィングビートを作ったりできる、奇妙なドラムマシンです。予測不可能なビートをライブ的に生み出すことに長けていそうです。

  5. 2万5,000のアーティストが、昨年Spotifyから5万ドル以上を稼いだ→レポートによると、2023年だけで2万人以上のアーティストがSpotifyのみの使用料で5万ドル(約750万円)以上を稼ぎ、5万人以上のアーティストがSpotifyのみで1万7,000ドル(250万円)以上を稼いだそうです。1年でおよそ15万円を稼いだアーティストも26万人ほどいて、Spotifyで稼いでいる人は案外多いんだな…と思いました。

📊DIYアーティストのためのマーケティング戦略

音楽で稼ぐにはどうすればいいのか?どのようにリリースするのが効果的なのか?DIY(インディペンデント)アーティストが、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらう方法を探っていきます。

音楽業界で成功するためには、Spotifyのプレイリストに乗ることが一番手っ取り早くシンプルな方法の一つだと思います。プレイリストに曲を載せてもらうには、特定のウェブサイトを使って依頼をする必要があります。

その前にSpotify for Artistsでも無料で楽曲のピッチができるので、そちらを必ず終わらせておきましょう。その上でプレイリスターとつながるためのサービスを使い、自分の曲をサブミットすることで、プレイリストにのる確率を高めることができます。

こちらの記事で紹介されているスウェーデンのアーティストの例では、数百もの名義を使い、ストリーミングプラットフォームに3,000曲近くの楽曲を配信した結果、年間5億円の売り上げを上げているとのこと。

彼の曲は、有名なプレイリストにいくつも取り上げられていて、プレイリストの重要性がよくわかります。曲はヘルスケア向けやアンビエントといった、ストリーミングサービスで流行っているジャンルが多いですね。今はAIを活用すれば、こういった類の曲は大量に作れるので、SNSで一切活動せず、Spotifyで大量リリースするというのは効果的だと思います。(このアーティストはAIを使っていないとは思いますが)

大量リリースに加え、Spotifyのキュレーターを探して効率的にプレイリストに載ることで、アーティストとしての価値をさらに高められるでしょう。

📘著書「AI時代の作曲術」先行公開

いま書いているAI作曲の本の一部を、ニュースレターの読者である皆さんだけに、ちょっとだけお見せいたします。(内容は出版時に変更される可能性があります)

AI活用したアートワーク制作

オーストラリアやニュージーランドなど一部の国では、すでにSpotifyなどのストリーミングサービスに、AIを活用したアートワーク生成ツールが採用されています。

今のところ、プレイリストのアートワークをAIで作れる機能に限定されていますが、これから楽曲ごとのアートワーク制作にも、どんどんAIが使われていくことになるかもしれません。

ここでは、アートワーク制作に使えるいくつかのサービスと、その活用例を見ていきます。

AI画像生成ツールは日進月歩で新しいサービスが登場するので、ここでたくさん紹介してもすぐに良いものが出てくる可能性があります。ただ、中には比較的早い段階でAI市場に乗り出し、今後もしばらくは画像生成AIのメインツールとして使われるであろう3つのサービスを挙げてみます。

  • Midjourney

  • DALL-E

  • Leonardo.AI

これらはすべて画像生成AIですが、どれを使っても同じ画像ができあがるわけではありません。主な違いは以下の2点です。

  • 生成された画像の質感

  • 生成時の指示の仕方

画像の質感では、老舗Midjourneyが実写のようにリアルな素晴らしい絵を描いてくれますが、DALL-Eも負けず劣らずといった感じです。Leonardo.AIは、この2つに比べると実写というよりアニメのような可愛らしいデザインの絵が出てきやすいです。どれが一番良いというより、どんな質感の絵を出したいかで使うサービスを変える必要があるでしょう。

指示の仕方については、それぞれ大きく異なります。

まず、DALL-EはChatGPTを開発しているOpenAIによるものなので、ChatGPTを使ってプロンプトを生成できます。例えば、

「大通りを走るタクシーの画像を作って」

という指示をChatGPTに与えると、

「taxis driving along a bustling city street, capturing the essence of urban life with a focus on the dynamic and busy nature of city transportation (にぎやかな市街地を走るタクシー。都市交通のダイナミックさと忙しさに焦点を当て、都市生活の本質を捉えている。)」

と、より細かい情報を与えるプロンプトに自動変換し、画像を生成してくれます。

さらにこれをもとに、「画像のこの部分を変えてほしい」「追加でこういった要素を入れてほしい」と指示を与えると、生成された画像をどんどんブラッシュアップしてくれるのです。

最初にイマイチな画像が出てきても、ChatGPTと会話を繰り返すことで、最終的に良い画像が生まれることもあり、これがDALL-Eのもっとも優れた点とも言えます。

Midjourneyは一緒にプロンプトを考えてくれるわけではありませんが、画像生成の精度が高く、この中では一番リアリスティックな画像を描いてくれるので、愛用しているユーザーもとても多いと思います。「自分でプロンプトなんて考えられないよ!」ということであれば、Midjourneyのホームページにある画像とプロンプトの例を参考にしても良いですし、ChatGPTで作ったプロンプトをMidjourneyに入力して画像生成する、といった応用的な使い方も可能です。

Midjourneyはプロンプトの中で画像サイズなどを指定する必要がありますが、Leonardo.AIは画像サイズを選択したり、好みの質感を出すためのいくつかの生成オプションが備わっていたりと、より簡単に好みの画像を生成するための仕組みがあります。

ここで紹介したもの以外にも、無料のツールや、アニメ調に特化したツールなどさまざまなものがあるので、自分の好みのサービスを選んで、アートワーク制作に活用してみてください。

🙋‍♂️Q&A

音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
マシュマロにて、お気軽にどうぞ。

🧠Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

💰Make Money: 雨の日に一緒に勉強しませんか - よくありそうなYouTubeチャンネルですが、収益予想サイトによると月に100万円以上を稼ぎ出しています。「東京 + 環境音 + 音楽 +ポモドーロ」という掛け合わせがうまく効いているんでしょうね。個人的に日本という環境は、海外に向けて発信するのにかなり有利な環境だと思います。新しい収益源を開拓している人は、参考にしてみてはいかがでしょうか。

🎬映画: サイケな世界 ~スターが語る幻覚体験 - 最近、幻覚系の映画や動画を見ています。こちらの映画はサイケデリクスの良い面、悪い面、医学的な利用価値、昔のドラッグのイメージ、バッドトリップなどいろんな側面を取り上げています。

🎸アルバム: マルチ・ミディアム - 変わった音、変わった装置で作られた音が収録されていて、聴いてて楽しいアルバムがたくさん紹介されています。普通の曲に飽き飽きしてしまった人におすすめ。

🔈スピーカー: プロも絶賛! 理想の音を響かせる…社長のこだわりから生まれた究極の「スピーカー」 - シロクマスピーカーの制作秘話が紹介されています。タイムドメインというスピーカーをライセンス契約によりシロクマが独自の技術で製造しているのですが、本家と比べてとても安い!僕も家用に一台買おうかと思っていて、今度視聴に行っていきます。

週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.52

2024年3月22日発行

Blog: https://studio-okina.com/

HP: isseykakuuchi.info