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週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.52
このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。
プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。
あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。
目次
近況
今週の音楽ニュース
DIYアーティストのためのマーケティング戦略
著書「AI時代の作曲術」先行公開
Q&A
ブログ更新のお知らせ
Okina’s Picks
📝近況
ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。
今週は、AI界隈でClaude-3が話題になっています。
これまでAIといえばChatGPTでしたが、ClaudeというAIがバージョン3になったことでChatGPT-4を超え、さらにIQテストではこの類のAIで初めてとなる100を突破したという記事です。
この著者は、これまでに登場した様々なAIでIQテストを行い、その正答数を基にIQスコアを出し、表にまとめています。1位のClaude-3は、つい先週発表されたばかりのAIです。その次にChatGPT-4、Claude-2と続き、マイクロソフトのCopilotやGoogleのGeminiなどが並びます。
僕も早速Claudeに有料登録してみましたが、ChatGPTよりもかなり自然な受け答えで、ChatGPTを凌駕しているというのも納得です。
ChatGPTを使って歌詞を作っている方は、ぜひ、Claude-3も試してみることをおすすめします。
ちなみに歌詞を書かない人でも、Midjourneyのプロンプト作りにClaude-3が活用できます。簡単にクオリティの高い画像を作ることができるので、アー写やアルバムジャケットの制作に活用してみてはいかがでしょうか。
📱今週の音楽ニュース
「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
ボタンとジョイスティックでコードを演奏できるポケット・シンセ、Pocket Audio「HiChord」が誕生→ 超小型のコードシンセが登場。Teenage Engineeringの製品をさらに振り切ったようなデザインで、Instagramerには大ウケしそうです。 本気の音楽制作に使うには、ちょっと物足りなさそうですね。
ブラウザでチューニングを検索・編集→新しいAbleton Live12では、Max for Liveなどのツールなしで、自分の楽曲に特殊なチューニングを取り入れることができます。人は少しばかりの不調和を好むという研究もあるように、チューニングを変えてみることで、人々の琴線に触れる素敵な曲が出来上がるかもしれません。
Spliceの新しいモバイル版で、Spliceのサウンド・ライブラリーをポケットに入れることができる→ ついにiPhoneでもSpliceのCreate機能が使えるようになりました。もうちょっとiPhone内で編集できると嬉しいですが、これがあれば電車や新幹線での移動中も、曲作りのアイデア出しができるようになります。
TIDAL、料金プランをハイレゾ対応のみに一本化。従来のハイレゾプランから値下げ→TIDALがこのご時世にプランを引き下げるとのこと。Amazon MusicやApple Musicと同じ価格帯でTIDALが楽しめるようになります。日本未上陸ですが、興味がある人はVPNを使って安い国から登録しましょう。
ディストーション・プラグインの傑作、iZotope「Trash」が復活…… 無償版の「Trash Lite」も提供されるように→iZotopeのディストーション「Trash」は、一時的に販売が終了していたんですね。荒々しいディストーションサウンドを作るにはとても便利で、 インターフェイスも一新され、これまで以上に使いやすくなっています。iPadでも利用可能になりました。
📊DIYアーティストのためのマーケティング戦略
音楽で稼ぐにはどうすればいいのか?どのようにリリースするのが効果的なのか?DIY(インディペンデント)アーティストが、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらう方法を探っていきます。
Spotify Canvasの動画を用意しなきゃ!と思いながら、数曲しかアップできていませんが・・・
Spotifyでリリースする曲にショート動画をつければ、
あなたの曲をシェアする可能性が145%アップする
あなたの曲をプレイリストに追加する可能性が20%アップする
あなたのアーティスト・プロフィールを訪問する可能性が9%アップする
あなたの曲をストリーミング再生する可能性が5%アップする
と、良いことだらけです。
最近はMidjourneyで作った画像を、RunwayやPikaで動かす実験をしていますがなかなか思うようにいかない!OpenAIのSoraが一般公開されるのはまだ先でしょうから(そもそも一般公開されるのでしょうか…)CDBabyやDistrokidの動画作成ツールを使うのが、今のところ一番簡単な方法だと思います。
ショート動画、なるべく入れるようにしましょう。
📘著書「AI時代の作曲術」先行公開
いま書いているAI作曲の本の一部を、ニュースレターの読者である皆さんだけに、ちょっとだけお見せいたします。(内容は出版時に変更される可能性があります)
その他のAIツール
音楽制作に使えるAIはここまで挙げた「完全作曲系」「メロディー・コード生成系」「ミキシング・マスタリング系」の3つになりますが、それ以外にもいくつか音楽制作に使えるAIがあるのでご紹介します。
- リバーブ(Neoverb, smart:verb)
- ボイスクローニング (Kits.AI、Elevenlabs)
- 作詞 (ChatGPT、Claude)
- ステム分離 (LALAL.AI、RipX DAW)
AIリバーブはインプットシグナルを分析し、カスタムされたリバーブを適用することで、音の濁りを自動的に防ぎ、その音にマッチしたリバーブをかけてくれます。
もちろん他の楽器との兼ね合いで、そのリバーブが完璧にマッチしないこともあるので、最後は人間の手で微調整していきます。リバーブというのは簡単なようで、実はいろんな種類があって 、シチュエーションごとに使い分けるのがとても難しいツールの1つだったのですが、こういったAIプラグインが登場したことにより、誰でも簡単に違和感のないリバーブをかけることができるようになりました。
smart:verbだと、XYパッドで自由に「自然なリバーブ」「人工的なリバーブ」「リバーブの密度」のバランスを調整できます。
次にボイスクローニングですが、Kits.AIは好きなアーティストのボーカルをAIが解析し、その人の声質をコピーできるツールです。
ボーカルのコピーを作った後は、テキストから声を生成しても良いのですが、それだと音楽と合わせたりできないので、まずは自分の声で歌い、それを生成したAIボイスに入れ替えるといった作業が必要になります。AIでコピーされた声と、自分の声があまりにもかけ離れていると、機械っぽいノイズが入ったり滑舌が悪くなったりしてしまうので、もう少し精度が上がればもっと一般的に使われるようになるのではないかと思います。
とはいえ、ものの数分で、自分の声が好きなアーティストの声に変わってしまうボイスクローニングツールは、これから確実に利用者が増えていくでしょう。さらにKits.AIには「ボイスブレンディング」という機能もあり、誰かの声と誰かの声を掛け合わせることで、この世に存在しない声を生成できます。
例えば、自分の好きな2人のアーティストの声をブレンドすれば、「自分の好みが反映された、この世には存在しない声」を生成できるので、こうなってしまえば権利関係の問題を何一つ考える必要もなく、自分の曲でも使い放題です。
以前、ドレイクとザ・ウィークエンドの声を勝手に使い、Spotifyにアップして大量の再生回数を稼いだことで、レーベル側からクレームが入るという大きなニュースとなる出来事がありましたが、このボイスブレンディングを使えばそういった心配もなくなるでしょう。
次に作詞です。作詞AIは、アーティストが使うAIの中で最も利用度が高いものの1つで、ChatGTPを使っている人ならおわかりだと思いますが、適当な歌詞ならものの数十秒で作ることができますし、AIとの対話を繰り返してブラッシュアップし、自分だけの歌詞を作り出すこともできます。もはや芥川賞を受賞する小説にChatGTPが使われる時代なので、歌詞にAIを使うのはなんの違和感も感じませんね。
ChatGPTは誰にでも使えますが、良い回答を得るには少しばかり訊き方のコツが入ります。これを「プロンプトエンジニアリング」と言いますが、最近ではこれを学ぶためのコースも登場しています。今後この分野はどんどん発展するでしょうから、今のうちに「AIにどう尋ねると、自分の望む結果が返ってくるのか」を学んでおくことをおすすめします。
最後に、ステム分離ツールです。
ステムとは、音楽を構成している大まかな要素のことです。例えばバンドなら、ドラム、ギター、ベース、ボーカル、その他の楽器、という5つのステムにわけられます。
さて、このステム分離ツールを使うと、音楽から特定の構成要素のみを取り出すことができます。LALAL.AIを使えば、曲からボーカルだけをきれいに抜き取ったり、ドラムだけにしたり、特定の楽器だけを抜き出したりできます。こういったツールはこれまでにもたくさん出ていましたが、LALAL.AIは現存するステム分離ツールの中で最も優れた分離能力を持っています。分離の精度が甘いと、ボーカルを分離してもボーカルのリバーブが残ってしまったり、ボーカルを抜いた音楽が機械ノイズの入ったどこか違和感のあるサウンドになってしまうものですが、LALAL.AIは独自のAI技術により、極限までそのような機械的なノイズや不自然な音を削減することに成功しています。
この本の後半でも具体的な使い方を紹介しますが、ステム分離ツールはあらゆることに応用ができます。例えば、
ステムが提供されていない楽曲のリミックスする
すべての楽器を分離し、音楽がどのような構成になっているかを研究する
ボーカルだけを抜いてカラオケバージョンを作る
といった、いろんな可能性が広がります。
🙋♂️Q&A
音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
マシュマロにて、お気軽にどうぞ。
Q1.
毎週メルマガ配信ありがとうございます!
質問をさせていただきます。
現在、ミックス完了後の曲をLANDERのプラグインでマスタリングし、リファレンス曲に音量を大体合わせて終了しています。 (サブスク配信に使用)
聴感上特に音声が割れたりとした感じはないのですが、トゥルーピーク値やプラグイン上にあるLUFS値なども気にした方がよいのでしょうか。
また、LANDERプラグインに関係なく、マスリング時のこういうところを気をつけたりとかおすすめの方法あればご教示いただきたいです。
よろしくお願いいたします!
A1.
こんにちは。
LUFSはストリーミングを意識するなら-14LUFSあたりが定番ですが、Spotifyを聴いていると-8LUFSの曲なんかもざらにあって、海外のトップアーティストであっても特に気にしていない様子です。
ちょっと古いですが、この曲は一時的に-6LUFSまで行っています。
なので自分の求めるサウンドになっていれば、ラウドネスは特に気にしなくても良いと思います。トゥルーピークも0を超えているトラックは結構ありますので、こちらもメーターのピークが0を超えていなければ特に問題はないかと。
もし自分の好きな曲のLUFSが知りたければ、無料のYoulean Loudness Meterを使ってLUFSを測ってみましょう。Loopbackなどの内部ルーティングソフトを使えばSpotify上の曲のLUFSも測れます。
僕の場合ですが、マスタリングで常に気をつけているのは、次の2つです。
モノラルでの鳴り
音量を下げた時(-12dBくらい)の鳴り
左右に大きく広がっている曲は、モノラルで聴くと全然印象が違う場合があるのですが、そんな時はモノラルの方を信じます。モノでイメージ通り鳴っていればステレオでもちゃんと鳴ります。あと、リスニング音量をグッと落としてみて、ダイナミクスを確認します。音量を小さくしてみると、ダイナミクスが大きすぎる音がよくわかります。
ご参考になれば嬉しいです。
Q2.
こんにちわ。
kitoと申します。
2曲目のリリースがひっそりと行われました。
もし、お時間あれば。
そして質問です。Beatportや、Spotifyで自分の曲、特定の曲の再生回数を見るにはどうしたらいいのでしょうか?
調べたりしましたが、見れないのでしょうか?
自分の曲などまったく再生されてないと思いますが、見れたらいいなぁ、と思います。
もし、知っているようでしたらお願い致します。
A2.
リリースおめでとうございます!
Big Roomっぽいシンセにディープめの曲調、という組み合わせに新鮮さを感じました。ミックスバランスもいい感じですね!
Beatportの方はわかりませんが、自分の曲の再生回数を確認したいとのことでしたら、Spotify for Artistには登録されていますか?
これを使えばSpotifyでの再生回数や、自分の曲がどのプレイリストに入っているのかを確認できます。
今回はレーベルリリースのようですが、Distrokidなどを使って個人でリリースされる時はSpotifyのピッチ機能を使い、無料でキュレーターに自分の曲を宣伝することも可能です。
ぜひ、Spotify for Artistをチェックしてみてください。
🖊️ブログ更新のお知らせ
やっと電源周りを強化できました。
サクッと自宅のモニターの音を良くしたいなら、プロケーブルのアイソレーショントランスがおすすめです。200V工事をしなくても、音がグッと前に出て、ミキシングやマスタリングがしやすくなりますよ。
プロケーブルの製品はコスパが良いので、モニタースピーカーを使って制作するすべてのアーティストにおすすめです。
🧠Okina’s Picks
最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。
🎙️DIPLO Reveals His Favourite Plugins, Synths and Samplers - Diploのインタビュー動画の切り抜きです。彼がOutputのArcadeを使っているのは意外でした。Arcadeはサブスク型サンプルサービスの中では使いにくいイメージだったのですが、またどこかで試してみようかと思います。Tape Notesのサブスクに登録すれば、全編視聴可能。
🎸Heso - Jan and Naomi - 数年前、初めて聴いた瞬間からどハマりしてしまったJan and Naomiの1曲。DIY感あふれるレコーディングやミキシングに、AIの先の未来を見た気がします。この人間味あふれるサウンドは、きっとAIには作れません。
💡スロヴェニアではミツバチの鳴き声をリラックスに利用している - 要はASMRですね。 YouTubeに投稿されているミツバチの動画だと、ノイズが大きすぎて羽音があまり聞こえません。生ミツバチサウンドをぜひ一度聞いてみたいものです。
🤖900円で作るCV to MIDIコンバーター-モジュラーシンセ自作 - CV to MIDIコンバーターが欲しかったのでとても助かります。Arduinoが余っているので、どこかのタイミングで挑戦してみます。
週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.52
2024年3月15日発行
Blog: https://studio-okina.com/
HP: isseykakuuchi.info