週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.50

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 今週の音楽ニュース

  3. 作曲とミキシングのアイデア帳

  4. DIYアーティストのためのマーケティング戦略

  5. Q&A

  6. Okina’s Picks

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

最近は、とある店舗で流すためのBGMを作っています。

店舗設計に音楽は欠かせない要素の1つだと思いますが、案外気にしている店舗責任者は少ないのではないでしょうか。

お客さんは音楽を聴きに来るわけではないので、音楽が目立ちすぎるのも良くありませんが、人々の深層意識に訴えかけるような音楽を作りたいなと、ここ数週間、色々文献を読みあさっていました。

個人的に面白いなと感じたのはこちらの本で、

音がどのように僕たちの体験に影響を及ぼすのかについて、いくつかの事例と共に解説されています。

人々をリラックスさせる音楽といえば、「ソルフェジオ周波数」「倍音」「ハイパーソニックエフェクト」など様々なキーワードが思い浮かびますが、中には「これ絶対オカルトでしょ」みたいなのもたくさんあります。音は目に見えないものですし、「この音楽は各臓器に対応した周波数で構成されていて…」「この周波数は太陽の周波数と同じで…」とか適当に言って音楽を聞かせておけば、

「うわー、なんか太陽のエネルギーで体調良くなった気がするー」

となる人はたくさんいるでしょう。

もちろん言葉の力や思考の力で体調が良くなるのであれば、それはそれで良いことですが、そもそも良い音楽であれば何Hzが含まれていようと、CDのように高域が途中でバッサリ切れていようと、リラックスしたり調子が良くなったりするものです。

なので、こういった類の音楽療法はなかなか効果を測定しづらく、どのように作曲すれば本当に人々に影響を与えられる音楽になるのか、難しいところがあります。

そんな中、音楽療法の有効性や528Hz(ソルフェジオ)って本当に効くの?ということに真摯に向き合っている本を見つけました。

音楽が認知機能を改善させたり、健康にいろんな良い影響を与えるのは間違いないのですが、「音楽を聴かせると、脳画像のある領域が光って活性化しているので、この療法は効果があります!」みたいな測定方法はおかしいのではないか、といったことが1冊目の本には書かれています。

2冊目の本には、「ソルフェジオ周波数って本当に効果があるの?」「周波数が正確に測れない時代の音楽を参考にしてるけど、それって意味あるの?」みたいなことが書かれています。

これらの本を読んでみて、音楽療法は適切に行えば良い効果を発揮するけど、「ソルフェジオのような特定の周波数が人に良い影響を与える」という理論にはあまり根拠がないことがわかりました。音楽による人々への効果は測定しづらい部分もあるので、いろんな神秘的な説が横行しているのでしょう。

なので、今回の店舗BGMに関しては何の理論も使わず、ただお客さんが気持ちよくなり、くつろげることをイメージして作りましたが、音の世界には「測定できないけど人間の身体と心に作用する特殊な音」みたいな不思議が確実に存在すると思います。

これからも、こういったちょっとオカルティックな話題があれば、いろいろ調べてみて皆さんと共有していきたいですね。

📱今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
  1. USB Type-C接続に対応したJBLの有線イヤホン「TUNE310C」登場。96kHz/24ビットのDACを内蔵し、幅広いデバイスで高音質を体感できる→これ、もしかしたらめっちゃいいかも!と思い、早速eイヤホンでチェックしてきましたが、全然ダメでした。ハイレゾ対応のDACを搭載していても、この価格だと出せる音に限界があるのでしょうね。ついでにヘッドフォンも色々聴きに行ったのですが、HifimanのSUSVARAがとんでもなく良い音でした。

  2. DAACI Natural Drums ベータテストを開始→作曲家と音楽家を中心に据えたイギリスのAI頭脳集団DAACIから、ベータテスト版としてドラム生成ツールが登場しました。2024年に面白い動きをしてきそうなので個人的に注目しているAI系カンパニーでもあります。ベータテストにしては価格が高い気もしますが、どんなものなのか気になるので早速試してみます。

  3. Hit'n'MixのAI DAW、RipX: 音楽のミキシング解除について知っていると思っていたことをすべて忘れよう→Apple Vision Proへの対応も発表されているRipX DAW。ステム分離や楽器の入れ替えが簡単にできるツールで、DAWとは言っていますが、通常のDAWと比べるとできることが全然違います。早速使ってみましたが、楽曲分析やリミックスには、かなり役立つと感じました。

  4. Excite AudioがBloom Drum Breaksを発表→ドラムパターンを破壊し、再構築するプラグインがExcite Audioから登場しました。XOでドラムパターンをサクッと作り、Bloom Drum Breaksで再構築すればリスナーを飽きさせないドラムが一瞬で作れそうですね。

  5. ユニバーサルミュージック TikTokとの契約打ち切りへ【モーサテ】→TikTokから人気が出たアーティストもいるでしょうし、アーティストによっては重要なプロモーションツールだったと思いますが、テイラースウィフトやBTSも所属するユニバーサルの楽曲がTikTok内で使えなくなるとのこと。TikTokはケンカ腰ですが、この動きが拡大すればTikTokも危ういかもしれません。

📘作曲とミキシングのアイデア帳

作曲やミキシングが上達するための、動画・記事・アイデアをご紹介します。

前回のニュースレターに引き続き、今年発売予定のAI作曲に関する本の中身をチラッと公開いたします。

ミキシング・マスタリング系

ミキシング・マスタリング系は音質を調整するためのツールです。

ミキシングとマスタリングの違いについて少しだけ説明しておくと、ミキシングとは全体のバランスを整え、音楽の個性を出す作業。マスタリングは自宅のスピーカーやカーオーディオといった、あらゆる環境で音楽を再生するための最終調整作業を指します。一見、似たような作業に思えますが、ミキシングはミキシングエンジニアマスタリングはマスタリングエンジニアとそれぞれ別のエンジニアとして存在するくらい、この2つはかなり専門性の高いスキルになります。

ところが、いま音楽制作で一番使われているのは、このミキシング・マスタリングに関するAIです。怒られるかもしれませんが、AIを活用したプラグインが登場したことで、マスタリングエンジニアはもうほとんど必要とされないのではないかと思っています。

マスタリングとは、本来、調整されたスピーカー、スピーカースタンド、部屋の吸音、高価なオーディオ機材、計算されたスピーカー位置、そういった音質に関わるあらゆるものを調整した最高のスタジオで音を聞きながら調整していくという、お金もスキルもかなり必要な分野でした。ところがAIが登場したことにより、楽曲を分析し、そのジャンルに1番適した音にマスタリングしてくるくれるような製品が誕生しました。まだまだ、マスタリングエンジニアに比べると精度が低いのですが、最近は個人で簡単にリリースできるようになったこともあり、わざわざ個人で作ったものにお金をかけて、マスタリングエンジニアに調整してもらってという機会がかなり減りました。

あと最近では、ミキシングエンジニアがマスタリングエンジニアをも行う流れが一般的になりつつあるようです。プロフェッショナルの業界では、マスタリングエンジニアはまだ十数年は残ると思いますが、今後のAIの発達によっては真っ先に消滅する職業でしょう。

ミキシングエンジニアに関しては、アーティストやバンドの個性を出すための作業なので、まだ人間が入る余地がありますが、こちらもAIツールがかなり登場してきており、アーティスト自身がAIツールを使ってミキシングするようになるのも時間の問題。電子音楽の分野では、基本的にミキシングエンジニアに頼まず、アーティスト自らがやってしまうケースが多いですね。

さて、ここでミキシング・マスタリング系のツールをいくつか挙げてみます。

- iZotope Ozone, Neutron

- LANDR, eMasterd Online Service

- smart:EQ

- Gullfoss

最も有名なのは、iZotopeのOzone、Neutronでしょう。

こちらは毎年新しいバージョンが出ていて、AIの精度も年々向上しています。今ではエンジニアはもちろん、アーティストでもこういったツールを持っている人が多く、アーティストが自分でミキシングやマスタリングをしたいと思った時に、真っ先に購入候補に挙がるツールでもあります。これらは曲全体や各楽器を分析し、その曲や楽器に合った適切なEQ、コンプ、ステレオイメージの調整、ダイナミクスの調整、ラウドネスの調整などを行ってくれます。Ableton LiveなどのDAWでも使えるプラグイン形式なので、特定のトラックに挿したり、後からパラメーターを微調整したり、他のプラグインと組み合わせることも可能です。

LANDRやeMasteredはオンラインマスタリングの老舗で、まずこれらのツールがオンライン上で登場し、マスタリング業界を震撼させた歴史があります。今でも使ってる方は多いと思いますが、オンラインマスタリングの最も有名な会社であるLANDRも最近はプラグイン版を出したこともあり、わざわざオンラインにアップしなくてもDAWの中で使用する方法が主流になりつつあります。

また、smart:EQやGullfossについてですが、これらもOzoneやNeutronと同様、トラックを分析し、適切なEQをかけてくれるツールです。オールインワンならiZotopeの製品が強いですが、その他のAIツールもそれぞれ微妙にニュアンスの違った音に仕上がるので、良い音にしてくれるという点では変わり無いですが、自分の作りたい音の方向性、使いやすさなどによってツールを選ぶ必要があります。

📊DIYアーティストのためのマーケティング戦略

音楽で稼ぐにはどうすればいいのか?どのようにリリースするのが効果的なのか?DIY(インディペンデント)アーティストが、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらう方法を探っていきます。

アルバムジャケットはMidjourneyで

個人名義で制作している音楽のアートワークをDALL-E(ChatGPT)で書いていたのですが、最近になってMidjourneyの方がいい絵が出てくるな、と気付きました。

ブログのサムネイルもMidjourneyで作ったものに置き換えているのですが、例えばこれなんかは、自分でもとても気に入っています。

XOは宇宙の星屑のように散りばめられたサンプルから、好みのサンプルを選んでドラムシーケンスを作るプラグインなのですが、まさにこの絵はXOを表すのにぴったり。

プロンプトは英語でうまく伝えられないので、ChatGPTにいい感じのものを作ってもらい、それをMidjourneyに突っ込んでいます。

ジャケット制作はもうAIで十分!という方は、ぜひ使ってみることをおすすめします。

🙋‍♂️Q&A

音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
マシュマロにて、お気軽にどうぞ。

🧠Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🎹Mixing: Doja Cat "Woman" w/ Jesse Ray Ernster - ブログ記事でも紹介したことのあるPuremixから、Jesse Ray Ernster本人によるDoja cat”Woman”のミキシング解説動画が登場。有料ですが、ミキシングを上達させたい人にはとても参考になるサイトなので、気になっていた人はこれを機に登録してみてはいかがでしょう。

💡Technology: Apple Vision Pro: IN MY MUSIC STUDIO - Vision Proはもっと小型化されれば絶対に買うことになると思います。スピーカーの間にパソコンを置くと音に干渉するので困っていたのですが、Vision Proがあればあっさり解決。もう大きな画面のパソコンを買う必要もありません。

💰Make Money: 【稼ぎすぎww】ラッパーはなぜそんなに金を持っているのか…BADHOPの収入源から見る稼ぎ方 - 日本のトップHIPHOPアーティストってお金持ってるんですね。なぜラッパーがそれほど稼げるのかが解説されています。「インディペンデント」ってのは、この界隈や若い世代の1つのキーワードなのでしょう。

🎶Music: Glass Beams - 'Mahal' (Live) - 最近YouTubeで発見し、雰囲気・音楽ともに美しいなと感じたバンドです。「無国籍感溢れるエキゾチック・サイケデリアの世界観」と称される彼らのサウンドですが、どうやら最近Ninja Tuneと契約したみたいですね。レコード買います。

週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.50

2024年3月1日発行

Blog: https://studio-okina.com/

HP: isseykakuuchi.info