週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.5

  1. 近況

  2. 世界の音楽ニュース

  3. 未来をつくる音楽機材

  4. 今週の…

  5. 質問コーナー

  6. Okina’s Picks

  1. 近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

今週は世界最大の楽器展、NAMM Showにいます。

コロナの影響で、通常の1月開催から4月開催になりましたが、その関係で4月に開催されている世界最大の放送系機材展NAB Showにも来ることができました。

こういった展示会はオンラインでの開催も多くなってきていますが、現地に行くことの最大の魅力は、なんといってもメーカーの人と直接話せることだと思います。

開発のトップやメーカーの主要人物が、その辺にたくさんいて、要望や質問があればどんどん話しかけられる雰囲気もあります。

NABでは、現在、僕が仕事で使っているFairlight(Davinci Resolve)というソフトを作っているメーカーのブースがあり、そこの開発責任者とお話しできる機会もありました。

例えば、Fairlightでは、UADやAPB-16といったDSPベースのプラグインを使うと挙動がおかしくなるのですが、どうしてもFairlight上でUADなどのソフトを使いたい僕は、そのことについて尋ねてみると、「具体的な症状を直接メールで送ってくれ」「家にUADがあるから、帰って検証してみる」と、すぐにでも改善してくれそうなレスポンスがあり、「これが展示会の醍醐味だよなあ」と感動していました。

NAMMに関しては、ミキシングセミナーなどがあるので、クリス・ロード・アルジやトム・ロード・アルジといった数々の著名人がそこらへんを歩いています。

歩いている彼らに話しかけるのは、少し気を使いますが、Mix with the mastersのブースでセミナーなどを行っているので、質問があれば、少し勇気がいりますが直接尋ねることはできます。

世界最大の展示会ということもあって、誰かと話さなくても、そういった場にいるだけで刺激になりますし、とんでもない数の楽器や機材が並んでいるので、それを片っ端からみていくのも、とても面白いと思います。

電子楽器以外では、ギターやドラムだけでなく大量のピアノなども置いてあるので、展示会後半に暇を持て余した僕は、なぜかお気に入りのピアノメーカーを見つけることになりました。

音楽に関するあらゆるものが展示されているので、自分の中の新たな音楽性の発見にも役立つかもしれません。

アメリカなので、飛行機で10時間ほどと遠いですが、音楽好きなら一度は行ってみて損はない展示会だと思います。

また、NAMMの詳しい内容は、別号でお伝えいたします。

  1. 世界の音楽ニュース

音楽の世界は日々進化しているので、音楽制作の環境もビジネスの方法も、数年経てばガラリと変わってしまいます。日々、世界の音楽トレンドを探ることで、ワクワクするような新製品・新たな音楽サービスを発見し、また、今後アーティストが生き残るためのヒントを見つけ出します。

  1. 20% of Young Fans Plan to Take More Drugs — and Spend Less on Food and Drinks — to Save Money At Music Festivals, Study Finds (37% of fans shut out by festival ticket prices, 19% will do more drugs, says survey)→若い世代の音楽リスナーは、食事やお酒の消費を抑え、ドラッグにお金を費やすことで、なるべくお金をかけずにフェスを楽しもうとする傾向があるようです。日本だと全然状況が違いますが、今はどこの国も景気は良くないのでしょうね。

  2. 38th Annual TEC Award Winners Announced→特に気になる機材がノミネートされてるわけではないのですが、一応取り上げてみました。Neumannのオープンバックヘッドフォン、試してみたのですが、そんなに良い出来でしょうか?正直、値段分の価値があるとは思えませんでしたね。

  3. Mastering Trends For 2023→ストリーミングの登場でラウドネス戦争が終結したかに見えましたが、昨年のトップ25ソングの平均LUFSは-8.4LUFS。Spotifyでは-14LUFSを上回る曲にはラウドネスの補正が入りますが、ほとんどの人気曲がこれ以上の音圧を出しているというのはとても興味深いですね。

  4. Dolby Atmos Composer Lets You Produce Spatial Audio In Any DAW→Dolbyがイマーシブ環境に対応した制作システムを発表。Sound Particlesも世界初のイマーシブ対応シンセをリリースしましたが、世の中の流れはやはりイマーシブなのでしょう。さすがに一般のアーティストが10個以上のスピーカーを揃える日はやってこないはずなので、ヘッドフォン×イマーシブが基本になってくると思います。

  5. Rise of Video Game Music: Why more artists should make music for Games→今や、ゲームに使われる楽曲がグラミー賞を受賞し、Spotifyにも「ゲーム」のプレイリストが公開される時代です。今から音楽制作を始める人は、ゲーム業界を狙うというのも1つの手だと思います。

  1. 未来をつくる音楽機材

音楽機材やプラグインは毎年新しいものが登場します。特に、プラグイン(音楽ソフト)はコンピュターの進化に伴って、毎年進化していきます。今や、AIプラグインなどの最新技術を活用することで、技術や経験の蓄積をすっ飛ばして優れた音楽が作れる時代になりました。ここでは、そんな音楽制作に役立つ最新の音楽機材・プラグインの情報をお伝えしていきます。

Sonyから、「360 VME」という画期的な製品が発表されました。

これは、ヘッドフォンでサラウンドスピーカーの音場を再現するシステムで、「ヘッドフォン型サラウンドスピーカーシステム」といっても過言ではないくらいの出来に仕上がっています。

今までも、Embodyなどのメーカーが、耳や頭部の形を写真で解析し、スタジオモニターの音場を再現するという試みがありましたが、今回のSonyのVMEは、音場の再現性が異次元です。

測定方法は、耳にマイクを入れて、実際にスタジオのモニタースピーカーから1つづつ音を流し、それをマイクで拾ってHRTF(頭部伝達関数)を解析することによって、個別のヘッドフォンプロファイルを作成します。

こういった実際のリスニング環境で精密に測定を行うことで、再現性の高い音場を作り上げているのですが、困ったことに、今のところ、日本でこれを利用しようとすると、MILスタジオに行って専用マイクを使わせてもらい測定するしかプロファイルを作る方法がなく、値段も1回の測定で5~6万円とかなり高額。

まだまだ、日本でこの技術が普及することはなさそうですが、一度体験すれば必ず全員が驚くほどの再現性なので、もしこれが広まれば、サラウンドスピーカーを購入せずとも自宅で5.1chやDolby Atmosのミキシングができてしまいます。

とはいえ、先ほどもお伝えしたように、測定できるスタジオが限られているのと、1回の測定の値段が高すぎるということで、いち早く気づいた感度の高いエンジニアやアーティストから徐々に広まっていくんだろうなと思います。

サラウンドミキシングの仕事をしている人でもない限り、これを試してみるのは難しいかもしれませんが、今後必ず広まっていくであろう画期的な技術として、こちらでご紹介しました。

僕もNAMM Showで測定をしてもらいましたが、これは衝撃的でしたね。

興味がある方は、ぜひ測定を試してみてはいかがでしょう。

サービスは、2023年の夏頃に開始予定だそうです。

  1. 今週の…

今週は、楽曲紹介です。

紹介したいのは、僕の大好きな一曲、Lee BurridgeのLingala。

6年前の曲ですが、今も色褪せないメロディックなディープハウスの名曲です。

この曲がおもしろいのは、リンガラ語というアフリカの言葉を取り入れたボーカルだけでなく、低音の出し方にあります。

実際、クラブでこの曲をかけると、かなり気持ちいいのですが、スペアナをみてみると50Hzあたりがごっそり抜け落ち、代わりに40Hz付近の音が低域の大部分をしめているのがわかります。

変な低音の出方ですが、これがクラブのサウンドシステムでとてもうまく機能しているので、低域の作り方を研究している人は参考になるかもしれません。

All Day I Dreamも今や人気パーティーとして大衆化してしまい、音的にはあまり興味はなくなったのですが、Lee BurridgeのDJは野外で聴くととても気持ち良さそうなので、いつかAll Day I Dreamに行って生Burridgeを聴いてみたいと思っている今日この頃です。

  1. 質問コーナー

みなさんからのご質問受け付けています。

音楽機材のこと、制作のこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ!

自分で作った楽曲に関するアドバイスが欲しい!という方は、SoundCloudのリンクを送っていただければお答えいたします。その際は、このQ&Aコーナーにも貼らせていただきますのでご了承ください。

  1. Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🎧チル: Ultimate Calm Ólafur Arnalds: Series 2 - BBC Twoにて配信されている、Olafur Arnaldsによってセレクトされた音楽。寝る前におすすめです。

📖記事: How to create realistic MIDI bass lines that groove - リアルなベースをMIDIで作るための方法が解説されています。ジャンルごとのベースの特徴も解説されていて、いろんな音楽に応用できそうです。

📚本: Master Handbook of Acoustics - ルームアコースティックについての本です。日本語の本には載っていないような細かな情報まで書かれているので、本格的にルームアコースティックを調整したい人におすすめ。

📱App: Borderlands - 新発売のiPadグラニュラーシンセです。まだ、使いこなせていませんが、なかなか便利そうです。

週刊「スタジオ翁」メルマガ版 Vol.5

2023年4月21日発行

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