週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.48

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 今週の音楽ニュース

  3. 作曲とミキシングのアイデア帳

  4. DIYアーティストのためのマーケティング戦略

  5. Q&A

  6. ブログ更新のお知らせ

  7. Okina’s Picks

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

自分の声をお気に入りのアーティストの声に変換できる「Kits.AI」というAIツールがあるのですが、これに「Voice Blender」という新たな機能が追加されていました。

これはKits.AIで生成したAIボイスを2つ掛け合わせ、新たな声を作る機能です。

これまでアーティストの声を無断で使うことには賛否両論ありましたが、アーティストの声を掛け合わせ、新たな声で作品を作るなら、何の問題もなくなるでしょう。

実際に使ってみましたが、既存のAIボイスと比べても違和感はなく、 2つの声の特徴をうまく抽出しミックスしているなと思いました。この機能を誰もが使えるようになる事には、恐ろしさすら感じますね。

これはボーカルでも使えますが、もちろんナレーション等でも使えるので、お気に入りの声優やナレーターの声を抽出し、2つを掛け合わせて自分だけのオリジナルボイスを作って、作品に使う人がこれからどんどん増えてくるのでしょう。

最近、AI草野マサムネ(スピッツ)にあいみょんのマリーゴールドを歌わせている動画を見つけたのですが、その完成度の高さと違和感のなさに驚きました。この方はRVCという誰でも無料で使えるボイスクローニングを使っているようですが、こちらはPythonを使う必要があるのと、2つの声をブレンディングすることはできないので、Kits.AIのように誰にでも使えるサービスの方が実用的だと思います。

「AIボイスは便利だけど、権利の問題もあるから仕事では使えないな、実用的ではないな」と思われていた方は、このボイスブレンディング機能を使って、自分の作品に好みの歌声を取り入れてみてはいかがでしょう。

📱今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
  1. Audacityにインテルが提供するAI搭載の無料サウンドツールが登場→無料のオーディオエディットツールAudacityで、なんと無料のステムセパレーション機能や、Wisper.cppを使った文字起こし機能が使えるようになりました。 ステムセパレーションは、ツールによって精度がかなり違うので、Windowsユーザの方はぜひ試してみてください。ただ、本当に高品質なステムセパレーションを求めるならLALAL.AIがおすすめです。

  2. Musio最適かつ無限のInstrumentsライブラリ→Cinesamplesの全製品がサブスクで使えるようになりました。 よく映画音楽に使われているようですが、伝統楽器やオーケストラはもちろん、シンセサイザーやドラムマシンまで揃ったかなり豊富なライブラリです。これをイチから集めるのはかなり大変なので、オーケストラの作曲時など、必要な時だけこういったサブスクを利用するのが良いと思います。

  3. MACKIE. THRASH212 GO レビュー:バッテリー駆動やBluetooth接続に対応するPA用パワードスピーカー→ 連続10時間駆動のバッテリーを内蔵したPAパワードスピーカーが登場。 野外で軽く音楽を流したい時、友人とパーティーをしたい時、河原でDJの練習をしたい時、ちょっとしたイベントにPAスピーカーを持ち込みたい時など、いろんな用途で使えそうですね。

  4. 謎のムーグ・シンセ、アンドリュー・ファンとスーパーボウルのハーフタイム・ショーで予告される→Moog Mirrorと呼ばれる新たなシンセサイザーが登場しました。Matriarchと似ていますがこちらは8ボイスなので、Matriarchの上位版といった感じでしょうか?発売がとても楽しみなシンセです。

  5. TAL-Pha(タルファ):クラシックなアナログ・トーンに磨きをかける→ 良質なプラグインシンセをリリースし続けるTALから、新たなシンセサイザーが登場しました。こちらはAlpha Juno 2をモデリングしたシンセです。 今でもたまにAlpha Juno 2を使ってダンストラックを作っている人を見かけますが、Juno-60やJuno-106とはまた違った、味のあるシンセですね。

📘作曲とミキシングのアイデア帳

作曲やミキシングが上達するための、動画・記事・アイデアをご紹介します。

Dr.Dreのマスタリングの秘密を紹介している動画を見つけました。

結論からお伝えすると、「Dr.Dreのマスタリングの秘密」としてこの動画で紹介されているのは、「Lavry Gold」というADコンバーター。

ADコンバーターとはアナログ機材でマスタリングをした後、その音を再びコンピュータに戻すために必要な、音声信号の変換機のことです。

せっかくアナログ機材でマスタリングをしても、その音を正確にデジタルに変換できなければ、アナログマスタリングの効果は十分に発揮されません。そのためプロのマスタリングエンジニアは、このような高品質なADコンバーターを扱っているのですが、単に信号を変換するだけではなく「ソフトサチュレーション」といって、音を歪ませ、迫力を出すための機能が付いているのが、このADコンバーターの大きな特徴です。

マスタリングの最後にソフトサチュレーションをかけることで、音に独特の風味やパンチを出すことができます。ただしこの機材、200万円近くするので、よほど大きなスタジオでもない限り購入は難しいでしょう。しかし、去年リリースされたGold Clipというプラグインを使えば、Lavryのソフトサチュレーションをコンピュータ上で再現することができます。

これは、僕も発売してすぐに使い始めましたが、自然に音圧を上げ、アナログの風味を出すことができるので、マスタリングチェーンに必ず入れています。Acustica Audioからも似たようなプラグインが出ているので、気になった方はそちらも試してみると良いでしょう。

ソフトサチュレーションはヒップホップやダンストラックといった迫力が必要なトラックにとても役立つので、 こういったジャンルのマスタリングをしている方は要チェックです。

📊DIYアーティストのためのマーケティング戦略

音楽で稼ぐにはどうすればいいのか?どのようにリリースするのが効果的なのか?DIY(インディペンデント)アーティストが、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらう方法を探っていきます。

Alice BoydのEメールマーケティング術

以前にもOkina’s Picksのコーナーで紹介したことがありますが、ロンドンを拠点とするアーティスト・サウンドデザイナーのAlice Boydが好きで、ホームページ作りなどの参考にしています。

曲が良いというより、彼女の醸し出す雰囲気がとても心地よい。

Alice Boydはメールマーケティングを積極的に活用しており、彼女のホームページからメルマガを登録すると、不定期でこんなメールが届きます。

メルマガには、本人や風景の柔らかい写真が載っていて、いつも雑誌を見ているような心地よい感覚になります。

こちらは自分で作ったデバイスで、植物から音を採取している様子です。

写真に写っているオレンジの機材が彼女の自作したツールなのですが、こういったデザインにも彼女の可愛らしさが表れていてとても良いですね。

この手のツールはPlantwaveをはじめとする製品が既にに市場にありますが、手作り感あふれる機材で、丁寧に音楽を作っているというストーリー性にも惹かれます。

アルバムのジャケットもセンスがよく、ついつい買いたくなってしまうようなデザインです。

Spotifyの再生はあまり回ってないのでおそらく知名度はあまりないのだと思いますが、有名でなくてもコアなファンを獲得している良い例だと思います。

YouTubeも登録者数は少ないですが、観ていてほっこりするようなコンテンツがたくさんあります。

自分をどう売り出すか悩んでいる方は、Alice Boydさんを参考にされてみてはいかがでしょうか。

🙋‍♂️Q&A

音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
マシュマロにて、お気軽にどうぞ。

🖊️ブログ更新のお知らせ

Pigmentsというソフトシンセが大好きで、過去にもレビュー記事を書いたことがありますが、最近アップデートされてPigments 5になったので、記事を加筆しました。

Pigments 5にあらゆるソフトシンセやサンプラーを通して、エフェクターとして使える機能が良いですね。グラニュラーシンセも相変わらず使いやすくて制作に欠かせないプラグインとなっています。

🧠Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🔧DIY: 素晴らしいウォールナットスピーカー - ウォールナット製のDIY Bluetoothスピーカー - くるみをBluetoothスピーカーに変身させる、DIYのスペシャリストの動画。 スピーカーを自作する人はいますが、こんなものまでスピーカーになるんですね。身の回りのいろんなものをスピーカー化したら面白そうです。

💡Inovation: We Built An AI MIDI Generator and Musicians Freaked Out… - Cinesamplesというサンプルライブラリーの会社のCEOが、ChatGPTを使ってMIDIを生成するプログラムを組んだようです。まだ実用化されていませんが、実用化は時間の問題でしょう。今出ている音楽AIの中では、数えるほどしかMIDI生成できるツールはありませんが、将来的には多くのAIツールがMIDIに対応するでしょう。

📺History: 浅倉大介×シンセサイザー - 音楽プロデューサーの浅倉大介さんが、テレビでシンセサイザーの歴史について紹介している動画がYouTubeに上がっていました。喋り出したらキリがないはずなのに、マニアックになりすぎず、初心者にもわかりやすくシンセの歴史を紹介しているのには関心しました。

✏️Learning: ジェイコブ・コリアーだけど楽器について質問ある? | Tech Support | WIRED Japan - このシリーズ大好きなんですよね。ジェイコブ・コリアーが視聴者からの様々な質問にわかりやすく答えています。 これだけいろんな楽器や音楽理論について魅力的に語れる人は世界中に数えるほどしかいないでしょう。

週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.48

2024年2月16日発行

Blog: https://studio-okina.com/

HP: isseykakuuchi.info