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週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.45
このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。
プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。
あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。
一緒に、音楽制作の未来を模索していきましょう。
目次
近況
今週の音楽ニュース
作曲とミキシングのアイデア帳
DIYアーティストのためのマーケティング戦略
Q&A
ブログ更新のお知らせ
Okina’s Picks
📝近況
ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。
今週、新たな曲をリリースしました。
最近導入したMoog Matriarchのサウンドも、たっぷり取り入れています。
この名義ではジャパニーズアンビエントサウンドを中心に制作し、海外に向けて発信してきたいと思っています。色々と構想はありますが、まずはトラックを作りまくることですね。
お時間あれば、お聴きくださいませ。
さて、普段マスタリングにOzoneを使っているのですが、AIマスタリングのパイオニアであるLANDRがプラグインを出していたので、一度試してみることに。
いろんなジャンルで試したわけではないのですが、びっくりしたことに、Ozoneよりも圧倒的に自然に仕上げることができました。
LANDRはオンラインマスタリングで最も有名な会社なので、マスタリングに関する膨大なデータを持っているのでしょう。
AIマスタリングならOzoneが群を抜いていると思っていましたが、AIの分野は競争が激しいですね。今日良いと思ったAIでも、明日には別の素晴らしいAIが登場します。
さらに、これから映画のフォーリー(足音とかつける人)を目指す人に、残念なニュースが飛び込んできました。
ある方のツイートですが、映像をAIが解析し、足音やドアの音などをつけてくれるようです。
この技術は必ず来るとは思っていましたが、想像よりも早く一般に普及するかもしれませんね。もし、今からフォーリーやマスタリングエンジニアを目指そうと思っている人には、厳しい時代がやってくるでしょう。
僕がやっていた、クラブエンジニアに関しても、同じく厳しい時代になると思います。
トップ層のPAエンジニアが作る音は素晴らしく、「これはAIにも難しいのではないか」と思うくらい、それぞれのエンジニアに個性があり、そのどれもが素晴らしいです。
一方で、80%くらいのクラブエンジニアは、正直大したことないです。
大きな声では言えませんが、クラブPAなんて誰にでもできます。ふらっとクラブやDJバーに行っても、なかなか良い音に巡り会えません。クラブの作りもあると思いますが、その日のエンジニアがしょぼいことが多すぎる!
なので、80%のクラブエンジニアは、早くAIになってほしいなと切実に思っています。
「AIに仕事を奪われるのではなく、AIを上手く扱える人に仕事を奪われる」と誰かが言っていましたが、AIを上手く扱える人にならないと、音楽業界においても大変なことになってきそうですね。
📱今週の音楽ニュース
「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
NAMM 2024:Arturia Pigments 5は素晴らしいシンセ・プラグインへの無料アップグレード→ザッと新機能をチェックしましたが、シーケンサー機能がかなり優秀です。Pigmentsで作ったシーケンスは、他のシンセでも使えるので、単にシーケンサープラグインとして使うのもアリですね。Pigmentsはもともとかなり好みのプラグインシンセなのですが、定期的にアップデートを繰り返し、使い心地がどんどん良くなっています。過去に書いたブログはこちら。
iZotope VEA: RX、Ozone、Nectarのテクノロジーを搭載したスピーチプラグイン→かなり精度の高そうな、声の音質をよくするプラグインがiZotopeから登場。もう動画クリエイターやポッドキャスターは、こういったAI系プラグインで十分ですね。簡単なノイズ処理やミキシングなら誰でもできる時代になりました。僕もさっそく、映画のプロジェクトで使用しています。
NAMM 2024コルグの新しいOpsix mkIIは、"今までのどんなシンセよりもバラエティに富む "ことを約束する。→これは気になります。初めて買ったハードシンセはYAMAHA DX7でしたが、FMシンセが大好きなので、楽器屋に並んだらすぐに弾きに行ってみようと思います。それにしても、自信満々なタイトルですね。
TikTokのAI搭載曲作成ツールで、次の大ヒット曲はあなたの指先次第→先日、AmazonのAlexaで音楽が作れるサービスを紹介しましたが、今度はTikTokでもAIソングが作れるようになるとのこと。もう「踊る人」「音楽を作る人」の境界線は消えつつあり、自分の踊りに合わせた好みの音楽を、自分で作るような時代になるのでしょう。
Behringer D2 Podcast Proはコンテンツ・クリエーターのために設計されています。→Behringerから、YouTuberやポッドキャスターのためのリーズナブルなマイクが登場。見た目もよく、使いやすそうなデザインですね。コンテンツクリエイターなら、これくらいのマイクで十分でしょう。コンテンツ用の録音は、マイクの音質よりも「レベル管理」「静かな環境で収録する」といった、基本的なことの方が重要だったりします。
📘作曲とミキシングのアイデア帳
作曲やミキシングが上達するための、動画・記事・アイデアをご紹介します。
LALAL.AIでサンプリングが異次元の手軽さに
LALAL.AIは、音楽からボーカルだけを抽出したり、ビートだけ抜き出したりできるツールなのですが、これを使えば相当なクオリティでサンプリングすることができます。
サンプリングといえば、自分の好きな曲の一部、例えばビートやシンセリフなどを抜き出して自分の曲に使う手法ですが、ヒップホップでは有名なトラックのサンプリングネタが、時代を超えて使われ続けることもしばしば。
僕は、好きな曲のビートだけを抜き出し、加工して使ったりしています。
また、曲の構造を理解するのにも使えます。
ビート、シンセ、ベース、その他の楽器などが綺麗に分離できるので、曲がどういった構成になっているのか、ビートがどういう構成になっているのかが、とてもわかりやすいのです。
曲の作り方がわからない!って人は、LALAL.AIを使って曲の構造を理解し、さらにそのサンプリング素材から曲作りを始めてみると良いと思います。
📊DIYアーティストのためのマーケティング戦略
音楽で稼ぐにはどうすればいいのか?どのようにリリースするのが効果的なのか?DIY(インディペンデント)アーティストが、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらう方法を探っていきます。
Introduction How to Master the Spotify Algorithm in 2024
MIT出身のエンジニアが語る、Spotifyのアルゴリズム。
知らなかった情報もあり、とても参考になりました。
中でも面白かったのは、Spotifyが公開しているAPIをもとに、曲の人気度をチェックするためのサイトを紹介している点。
それが、こちらのMusicstaxというサイトなのですが、曲ごとにアルゴリズムが判断しているPopularity(人気度)という数値があり、これが30%以上あればDiscover Weeklyなどのプレイリストに載りやすいのだそうです。
確かに、知名度のあるアーティストを見てみると、ダンスミュージックというマイナージャンルであっても、人気度30%〜50%くらいの曲が、その人の人気曲の大半を占めています。
ポップスになると、著名アーティストなら80%を超える楽曲もあります。
しかし、相当売れていないと30%を超えることは難しく、マイナーなアーティストの楽曲だと、人気度は数%しかありません。
試しに、いろんなアーティストを調べてみると面白いですよ。
自分の好きなアーティストはどのくらいの人気度があるのか?自分の曲で人気度が高い曲はどれか?といったことが数値でわかるので、アーティストはこの指標を頼りに、次に作る曲の方向性を決めていくのも良いかもしれませんね。
🙋♂️Q&A
音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
マシュマロにて、お気軽にどうぞ。
Q1.
こんにちは。
今回、はじめてbeatportより、 自分の曲がリリースされました。
もしお時間あれば聴いてくださいませ。
もしもですが、今後他のレーベルからリリースなどできた場合、 アーティスト名などは同じではまずいのでしょうか?
レーベルごとに名前を変える事になるのでしょうか?
お忙しい中、申し訳ありません。
何か御経験等あるようでしたら。
宜しくお願い致します。
A1.
こんにちは、Beatportからのリリースおめでとうございます!
さっそく聴いてみましたが、悪魔の沼を彷彿とさせる、ディープで中毒性のある素敵なトラックだなと感じました。
他のレーベルから出す場合ですが、結論としては、アーティスト名を変える必要はありません(ただし、変えたほうが良いケースもある)。
曲が商品だとすれば、レーベルとはデパートのようなもので、あるブランドがいろんなデパートに商品を置いてもらう際、デパートごとに商品名を変えたりしないですよね。アーティスト名は自分のブランドになりますので、曲の方向性が同じ場合は、次回作も同じアーティスト名でリリースしましょう。
次に、アーティスト名を変えた方が良いケース。
僕のリリースを例に挙げると、ohmeとIssey Kakuuchiという2つの名義でリリースしていますが、これは作っている音楽ジャンルが全然違うので、名義を変えています。1人のアーティストが、いろんなジャンルのリリースをしていると、レーベルとしても取り上げにくいですし、ファンの方も、あなたが一体どんなジャンルのアーティストなのか混乱してしまうでしょう。
こういったブランディングを意識しながら、必要なら新たな名義を作る、ということでよろしいかと思います。
次回作も楽しみにしております!
Q2.
お世話になります。
曲を作ったのでアドバイスいただきたいです!
また、YouTube、サブスクでも曲を配信しており、YouTubeの運営方法、今後の活動などのアドバイスもいただけると幸いです!
よろしくお願いいたします!
A2.
こんにちは!
どこか懐かしさを感じさせる、素敵なメロディーとハーモニーですね。
この手の曲は作ったことがないので、ミキシングのアドバイスになりますが、ドラムとベースのミキシング精度を上げることで、曲の聴き心地がさらに良くなると思いました。
気になったのは次の点です。
キック選び
スネアのコンプ感とリバーブ
ベースのEQ、コンプ
まず、生ドラムにドラムマシンのようなキックを入れているのは面白いなと思いました。ただ、このキックがちょっと浮いているように聞こえるので、コンプか何かで整えてみると良いかもしれません。もしかしたらキック自体を他のものに変えたほうが馴染むのかも?
次に、スネアが凶暴なので、リバーブを少し控えめに、コンプか何かをかけているなら、少しそれも控えめにすると曲に馴染むと思いました。優しいボーカルのエモいトラックなので、よりふさわしいスネアがあると思います。
ドラムはバスコンプなどで、もっとまとまりを出しても良いかもしれないですね。SSL Bus Compressro 2とかいいですよ。
最後に、ベースが少し聞き取りづらいと感じたので、EQとコンプを上手く使って、もっと前に出してあげると良いかもしれません。
といっても、EQとコンプは奥が深く、なかなか難しいかもしれません。なので、smart:EQやNeutronといったAIツールを使った方が、上手くいく可能性もあります。ここら辺のツールを使ったことがなければ、ぜひお試しください。
あと、今後の活動のアドバイスに関しては、どこを目指されているのかわからないので何とも言いづらいところですが、曲を聴かせていただいた時に、ふと、このアーティストが頭に浮かんだので、こういったCMやドラマの曲を作る道が向いてそうだなと勝手に思いました。
ただ、ここに辿り着く道を、僕は全く知りません… すいません。
単に、もっと多くの人にYouTubeを観ていただき、気に留めてもらうのが目標でしたら、まずはサムネイルを工夫してみると良いかなと思います。
Canvaなどのツールを使えば、誰でも簡単に凝ったサムネイルやアートワークが作れるのでおすすめです。
また、いつでもご質問くださいませ!
🖊️ブログ更新のお知らせ
Baby Audio「Spaced Out」| 音作りの幅が広がるマルチエフェクター
Vaundyが使っているというリバーブ/ディレイプラグイン「Spaced Out」を試してみました。
こちらは、奇抜な音作りにとても良いと思います。
サウンドを積極的に変化させたい時に使っていますが、綺麗めのリバーブが欲しいなら、BlackholeやCinematic Roomの方がマッチするでしょう。
リバーブ/ディレイの選択肢が一つ増えました。
なかなかおすすめです。
🧠Okina’s Picks
最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。
🕺🏻How to make LiveSet: Ben Böhmer: How To Play Live with Ableton | Setup Explained Masterclass - 最近、ライブセットの構築について勉強しているのですが、これは参考になりました。こんなにたくさんのコントローラーを買いたくないので、コントローラーは要検討ですね。
🧐Tips: Ableton LiveでワンノブのDJフィルターラックを作る方法 - DJミキサーについている「右に回すとハイパス、左に回すとローパスフィルター」になるノブを、Ableton内で作る方法が解説されています。来月公開予定の映画に、僕のDJプレイを入れてみたのですが、そこでは自分の作ったビートをUSB経由でDJM-S11に入れ、エフェクトをかけてDAWに再収録しました。DJミキサーのように、「ギュイーン」と大胆に変化するフィルターを自作するには、時間と工夫が必要ですが、ライブ用のエフェクトとして使える理想のフィルターをそのうち作ってみたいと思います。
🎬Film: ザ・プレイリスト | Netflix - Spotifyの創設者、ダニエルエクの自伝的ドラマです。Spotifyは日本市場に参入するのにかなり時間がかかりましたが、自国スウェーデンでも、既存の音楽産業との衝突など相当な苦労があったようですね。なんだかパワーをもらえるドラマです。
🎶Playlist: 2024 グラミー賞 ノミネート作品 - 来週2月5日は、グラミー賞の授賞式があります。あと一週間、去年流行った曲のおさらいをしておきましょう。
週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 Vol.45
2024年1月26日発行
Blog: https://studio-okina.com/
HP: isseykakuuchi.info