週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.41

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AIを使った次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 今週の音楽ニュース

  3. 作曲とミキシングのアイデア帳

  4. DIYアーティストのためのマーケティング戦略

  5. Q&A

  6. Okina’s Picks

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

ついに、念願のMoog Matriarchを購入しました。

今はプラグインでもクオリティの高いものが多いので、音楽を作るのにアナログシンセを持っている必要はありませんが、アナログシンセにしか表現できない音質は確実に存在します。

なので、こんな時代であっても音楽の表現方法の1つとして、アナログシンセを所有するのは悪くない選択肢だと思います。

Matriarchはセミモジュラーなので、パッチケーブルを使わなくても音は出ます。ですがケーブルを使って音を加工してあげると、さらに複雑な音色やシーケンスが組めるので、パッチングを勉強するのに越したことはありません。

複雑なパッチングはなかなかネットで調べてもヒットしないことが多いですが、そんな時はChatGTPを使ってみましょう。

“Moog Matriarchでアンビエントを作りたいので、パッチングの例を5つ挙げてください”

このように問いかければ、パッチング例が手に入ります。

複雑なパッチだったり、狙った音を出すためのパッチをピンポイントで提案してくれるわけではないので、めちゃくちゃ実用的かと言われればそうでもないのですが、質問次第で、なかなかおもしろい回答を用意してくれることもあります。

日々、AIの活用方法を模索中です。

📱今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。
  1. 2024年のSpliceについて知っておくべきすべて→ スプライスについて知っておくべき事が動画にまとめられています。今年登場したCreate機能は、競合のLoopcloudにはない特別な機能で、サンプルを1つ選ぶと、そのサンプルに合うベース、キーボード、ドラムなどを自動的にAIが選んでくれます。

  2. 2023年のベスト・マイク録音革新の年→ 2023年に登場した、新作マイクが紹介されています。中でもUniversal AudioのSphereはとてもバランスのとれたマイクで、ステレオで録るかモノラルで録るかを選べる、録音した後にマイクエミュレーションを変更できるなど、多くのメリットがあっておすすめです。

  3. MicrosoftのCopilotチャットボット、Sunoとの統合で楽曲制作が可能に→Sunoという最近話題になっているAI作曲ツールを使ってみましたが、なかなか完成度高めの曲が一瞬できます。ChatGTPと組み合わせて歌詞を書くと、3分くらいで、ボーカル付きの曲がまるっと完成してしまいます。MicrosoftのCopilotもChatGTPと似たようなサービスですが、これに作曲AIのSunoが連携しているので、CopilotからSunoを使うとさらに早く作曲できます。

  4. グライムスAIプロジェクトが正式にベータ版を開始 - 音声変換ツールや配信などを完備→先週のニュースレターで、マスタリングエンジニアのAI化のニュースをお伝えしましたが、Grimesというカナダのアーティストは、自分の声をAI化して使用料を取ることでロイヤリティを受け取れるというプロジェクトを推進しています。エンジニアAIによってマスタリングエンジニアは消滅すると思いますが、人間の声は果たして生き残ることができるのでしょうか。

  5. LIVE | Best Plugins of 2023 | Tune in to Win!→Plugin Boutiqueのジャンル別ベストプラグインを見ることができます。この中で僕が気になったのは、SEQUND SequencerGroove ShaperEfx MOTIONSの3つのソフトでした。かなり多くのプラグインが紹介されているので、今年どんなプラグインが人気だったのか知りたい方は、ぜひチェックしてみてください。

📘作曲とミキシングのアイデア帳

作曲やミキシングが上達するための、動画・記事・アイデアをご紹介します。

XLN Audio XOを活用したビートメイキング

ビートメイキングの最終兵器とも言える「XO」をご存知でしょうか?

最近になって使い始めたのですが、自分の好きなサンプルパックを読み込ませるだけで、一瞬で複数のビートパターンが完成してしまいます。

本当に一瞬です。

パターンの微調整や各楽器の変更も、とにかく素早く簡単にできるよう工夫されているので、Spliceを使って組み合わせるよりも10倍速く曲作りができてしまいます。

なんで今まで使っていなかったんだろう…というレベルです。

つい最近、同じ会社からリリースされた「Life」もおすすめですが、様々なバリエーションのビートを高速で作りたいなら、XOは持っておいた方が良いでしょう。

もう、XOなしのビートメイキングは考えられません。

📊DIYアーティストのためのマーケティング戦略

音楽で稼ぐにはどうすればいいのか?どのようにリリースするのが効果的なのか?DIY(インディペンデント)アーティストが、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらう方法を探っていきます。

Clipsのご紹介:Spotifyでショートフォーム動画を始めよう

Clipsは、アーティストが自身のプロフィールやアルバムページに、30秒のビデオを追加できる機能です。

自己紹介に使ったり、最近のライブの様子を投稿したりとアーティストによってClipsの使い方は様々ですが、一時的なヒットではなく、ファンとの繋がりを強化するためにSpotifyが導入した新たな機能。

アーティストが溢れるこの時代、短い動画コンテンツを使って、そのアーティスト独自のオリジナルストーリーを伝えることはとても重要だと感じます。

使える機能はどんどん使っていって、アーティストとの強い繋がりを作るための武器にしましょう。

🙋‍♂️Q&A

音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。次週のニュースレターでお答えいたします。
「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloud等のリンクを送っていただければお答えできます。
今週から、マシュマロというプラットフォームを使ってみることにしました。

Q1.

翁さんこんにちは!いつも楽しくニュースレターを拝見させていただいております。現在DTMを初めて3ヶ月なのですが、MIDIキーボード探しに悪戦苦闘しており、ピアノ等は全く弾けないのですが、あった方が何かと便利かと思い購入を検討しています。そこで何か初心者向けでオススメのMIDIキーボードはございますか?

A1.

いまMIDIキーボードを買うなら、2024年発売予定のROLI「Seaboard Block M」がおすすめです。

最近出たAbleton Push 3には、パッドを左右に揺らすことでビブラートをつけられる機能などがついていますが、Seaboardには「5D Touch technology」という従来のMIDIキーボードにはなかった、音に様々な変化を与えるための機能が搭載されています。

これによって、ビブラートはもちろん、鍵盤の叩き方によってパーカッションのような音を出したり、指を鍵盤の奥側にスライドさせることで、シンセのフィルターを開いたりといった新しい表現方法が可能になります。

もう1つの選択肢として、アナログシンセを購入するのも良いでしょう。

USB(またはMIDI)で繋ぐタイプのアナログシンセはMIDIキーボードとしても使えるので、「アナログ独特のサウンド」と「MIDIキーボード」の2つの機能が一度に手に入ります。

Q2.

こんにちは。来年は大量制作してSpotifyで月に30万を目指されるとのことですが、先日私がみた記事によると年間1000再生以下の曲はロイヤリティの対象にならないそうです。https://gigazine.net/news/20231122-spotify-modernizing-royalty-system/私も同じ方法を計画していたのですが、大量にリリースしたとしてもそれらが1000回以上再生されるのはかなり難しいのではないかと躊躇しています。スタジオ翁さまのお考えを聞かせていただけるとありがたいです。よろしくお願い致します。

A1.

このニュース、もちろん存じております。

僕たちDIYアーティストにとっては、再生数1000回以下の曲にロイヤリティがつかないのは、結構な痛手に感じてしまいますよね。

これは第36回のニュースレターでも取り上げさせていただきまして、環境音や機械音などの、音楽とは呼べないコンテンツへのロイヤリティの流出を防ぐのが目的なのですが、Spotify側は「Spotify上に存在する楽曲の99.5%は少なくとも年間1000回以上再生されているため、収益化のハードルを上げることで影響を受けるアーティストはごく少数である」と言っています。

そして僕の考えですが、年間再生1000回以下の曲にロイヤリティがつかなくてもあまり問題にならない、と思っています。

理由としては、先日紹介した青山ミチルさんの有料noteを読んで感じたことですが、彼はSpotifyのプレイリストに載ることを狙って音楽を大量に作り続けている(本人はこれを宝くじを引くとおっしゃっていました)ので、おそらく「大量の曲がバランスよくロイヤリティを稼いでくれている」というよりは、「運よく有名なプレイリストに載った一部の曲が、収益のほとんどを稼いでくれている」のではないかと予想しています。

なので、ほとんどの曲が1000再生以下でも、一部の曲で数万〜数十万再生を得れば、おそらく同じ方法でも稼げる可能性は残っています。

僕の場合は、もう少し音楽の質を高めて量を質でカバーしたり、SubmitHubの特定のキュレーターを狙って曲を作ったり、Facebook広告を活用してファンエンゲージメントを高めたりすることで、プレイリストに選ばれる可能性を、別の角度から高めていこうとしています。

Andrew Southworthのこの記事によると、Spotifyの1000回あたり収益は465円(3.3ドル)なので、仮にSpotifyだけで月30万円を稼ぐなら月65万回再生という途方もない数字が必要ですが、Apple MusicはSpotifyの倍のロイヤリティなので、月65万回再生を大幅に下回る数字で月30万円が達成できるかもしれませんし、Bandcampでも同時にリリースすることでそこから予想外の収益が生まれ、目標の達成に大きく近づけるかもしれません。

結局、こういうのはやってみないとわからないですし、正確な情報は稼いでいるアーティストの手にしかないと思うので、いろいろと可能性を模索してみて方向修正を重ねていくしかないと思います。

ご質問の内容からおそらく、やってみて全然稼げなかった場合、大量の手間と時間を無駄にしてしまうことを心配されているのだと思いますが、仮に月3万円しか稼げなかったとしても、作曲スキルと楽曲資産は自分の手元に残るので、これを武器にまた新たな道を模索すればそれで良いと思います。

なので、このニュースに関しては特に気にしていないですし、やってみてダメでも、その過程で作り上げた資産は無駄にならないので、チャレンジしてみる価値はある、というのが僕の意見です。

🧠Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🌅Art: 映画『オラファー・エリアソン視覚と知覚』DVD - 最近、麻布台ヒルズのオラファー・エリアソン展に行きました。定期的にオラファー・エリアソンが気になってインタビュー動画を観たりするのですが、彼の思想などを理解するのに、こちらの映画が役立ちそうだったので購入しました。

🎬Film: 素晴らしき、きのこの世界(字幕版) - きのこ界の重鎮であるポールスタメッツが出演している、きのこに関する映画です。音楽も素晴らしいので定期的に見返しています。来年はきのこについて、もう少し探究を進めたいですね。

📒Tips: 自分のトラック、「すべてを集めて保存」してますか? - Ableton Liveのプロジェクトを他の人と共有する時は、必ずこれをしましょう。プロジェクトサイズを軽くする方法も紹介されています。

📺Tutorial: How to Make Deep House/Organic House like DAVI & Hraach - 2年前の動画ですが、Deep House/Organic Houseの作り方系動画だと、この方のYouTubeが結構参考になりました。

週刊「スタジオ翁」メルマガ版 Vol.41

2023年12月29日発行

Blog: https://studio-okina.com/

HP: isseykakuuchi.info