週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.4

  1. 近況

  2. 世界の音楽ニュース

  3. 未来をつくる音楽機材

  4. 今週の…

  5. 質問コーナー

  6. Okina’s Picks

  1. 近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

今週は、空間オーディオに取り組んでいます。

2019年、Dolbyが「Dolby Atmos Music」を開始し、Amazon Music、Tidal、Apple MusicなどでDolby Atmosが気軽に楽しめるようになったことで、エンジニアを含む多くの人が、空間オーディオの世界に進出するようになりました。

この領域は、設備投資にお金がかかる分、早くから参入しているエンジニアやアーティストが、多くの先行者利益を得られる可能性があります。

現在、空間オーディオには、有名どころが2つありまして、それがDolby Atmosと、Sony 360 Reality Audioです。

僕が取り組んでいるのはDolby Atmosですが、Atomos Rendererなどのソフトを一通り触ってみて、「この領域には今後、エンジニアだけでなく、アーティストも多く参入してくるな」と感じました。

理由としては、Dolby Atmosが、従来の5.1chなどのサラウンド技術とは全く異なるシステムだからです。

まず、映画館などでよく見かける「5.1ch」というのは、5つのスピーカーにサブウーファーが1つというシステムです。

一方、Dolby Atmosは「7.1.4ch」が基本で、7つのスピーカーにサブウーファーが1つ、そして天井のスピーカーが4つ、となっています。

実はこれ、単に、「耳の高さのスピーカーが増えて、天井からも音が降ってくるようになったから画期的」なのではありません。

Dolbyの技術を使えば、この7.1.4chの音を、簡単に5.1chスピーカーに対応させたり、AirPodsの空間オーディオに対応させたりできるのです。

つまり、今まで5.1chでミキシングした曲は「5.1ch分のスピーカーを持っている人」しか楽しめなかったのが、Dolby Atmosの曲は「どんなスピーカーシステムを持っている人」でも楽しめるものに変化したのです。

これって、すごく画期的なことだと思いませんか?

Apple Musicに登録している人はわかると思いますが、Dolby Atmosに対応している楽曲は、空間性やダイナミックレンジがすごく豊かなんですよね。

そして、ヘッドフォンだけでも、ある程度の空間性を再現することができ、リスナーはイヤホンだけで特別な体験ができるようになっています。

とはいえ、Dolby Atomosは良いところばかりではなく、ルームリバーブっぽい、ぼやけた音の響きに感じることもあり、解像度はステレオに比べて下がってしまうのは否めません。

今後は、ここら辺の技術がもっと進歩して、空間性と解像度をかね備えた、空間オーディオが求められると思います。

  1. 世界の音楽ニュース

音楽の世界は日々進化しているので、音楽制作の環境もビジネスの方法も、数年経てばガラリと変わってしまいます。日々、世界の音楽トレンドを探ることで、ワクワクするような新製品・新たな音楽サービスを発見し、また、今後アーティストが生き残るためのヒントを見つけ出します。

  1. How to Release an Album in 2023 (Live from SXSW)→アーティスト戦略の情報発信をするメディア「Ari’s Take」が、効果的なアルバムリリースの方法をプレゼンしている様子。これは、今年のSXSWですね。

  2. Sony Announces Personalized Virtual Mix Environment→Sony 360VME技術を使えば、ヘッドフォンだけで空間オーディオを再現できる!映画制作などに使われるダビングステージを再現する目的で作られたようですが、Dolby Atmosもヘッドフォンで再現できて、音楽制作者もこの技術を使う流れがやってくるかもしれません。

  3. Oeksound bring Soothe Live to Avid S6L platform→音楽制作者にはお馴染みのレゾナンスサプレッサーSootheがライブにも対応。今や、レコーディングエンジニアが、PAもこなしてしまう時代。こういったプラグインの登場によって、専門でない人が、新たな領域で活躍する流れがますます加速しますね。

  4. Bitwig Studio 5 Now Available As A Beta Release, Here’s What’s New→Bitwigのニューバージョンのベータ版が発表されました。もっと触ってみたいと思いつつ、なかなか触れていません。

  5. US Leading Console Brand Harrison Joins Solid State Logic→アメリカとイギリスの著名ブランド、SSLとHarrisonが提携しました。最近、SSLはデジタルにシフトし、SSL360などの画期的な製品を生み出しています。この提携によって、夢のSSL DAWが誕生するかも?

  1. 未来をつくる音楽機材

音楽機材やプラグインは毎年新しいものが登場します。特に、プラグイン(音楽ソフト)はコンピュターの進化に伴って、毎年進化していきます。今や、AIプラグインなどの最新技術を活用することで、技術や経験の蓄積をすっ飛ばして優れた音楽が作れる時代になりました。ここでは、そんな音楽制作に役立つ最新の音楽機材・プラグインの情報をお伝えしていきます。

GPU Audioは、オーディオ処理にCPUではなくGPUを活用することで、プラグインを高速化する技術を持つメーカーです。

人間の脳も、「前頭葉は理性」「海馬は記憶」というように、場所ごとに得意な処理が異なりますが、パソコンもCPUとGPUに、それぞれ得意な処理を担当させることで高速化をはかっています。

GPUは画像処理に強い領域で、今までは、音楽制作のプラグインを処理するのに使われる領域ではありませんでした。

これを音楽プラグインの処理に使うことができれば、今まで重すぎて動かなかったプラグインがサクサク動いたり、大量のトラックをフリーズすることなく使える可能性があります。

今は、ベータ版の段階なので、まだまだこれからといったところですが、昨日から開催されるNAMM Show 2023では、Genelec、Splice、Vienna Symphonic Library、Mach1、MNTRA、Harmonaiなどの有名なメーカーをサポーターにつけ、「GPU Audio Innovative Lounge」というディスカッションやライブパフォーマンスのための催しを主催するなど、今後の躍進がとても楽しみなメーカーです。

実際、GPUを使うと、どのくらいパフォーマンスが上がるのか?ということを実験している人もいますね。

まったく同じプラグインで比較することはできないので、良し悪しが判断しづらいのですが、GPUがプラグインを処理している様子を動画で確認することができます。

GPUといえば、最近話題のAIの処理にも使われる領域で、個人的にはこの部分の処理がうまくいけば、高性能のAI系プラグインがいくつも出てくるのではないかと、楽しみにしています。

そしてiZotope「RX」といった、リアルタイムで使うには重すぎるノイズ処理ソフトがサクサク使えるようになったり、Acustica Audioなどの高品質なプラグインを、高額なパソコンを買わをなくても、誰もが気軽に使えるようになると、素人とプロの差がますます縮まってくると思います。

今はまだ、「お金のある人が良い機材を購入し、良い音を作れる時代」だと思いますが、「お金がなくても、センスだけで良い音が作れる時代」までもう少しだと感じます。

その一端を担うGPU Audio、今後の流れに注目です。

  1. 今週の…

今週も、映画を一本ご紹介します。

こちらはDave Smith、Andrew Scheps、Tycho、Hans Zimmerといった、音楽業界のそうそうたる面々のインタビューをまとめた映画。

2017年のSXSWでプレミア公開されたものですが、現在はYouTubeやVimeoで無料公開されています。

普段聴いている音楽が、どのようにプロデューサーやエンジニアからリスナーの耳に届くのかを知ることで、音楽のより深い世界を再発見できる映画です。

  1. 質問コーナー

みなさんからのご質問受け付けています。

音楽機材のこと、制作のこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ!

自分で作った楽曲に関するアドバイスが欲しい!という方は、SoundCloudのリンクを送っていただければお答えいたします。その際は、このQ&Aコーナーにも貼らせていただきますのでご了承ください。

  1. Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🌳Field Recording: Earth.fm - 世界中のフィールドレコーディングが聴けるサイトがあったらいいな…と思ったらありました。クオリティもかなり高いです。

🖥️YouTube: 10 Winning Sound Design Techniques in 2023 - 音楽制作の初心者から抜け出したい!そんな人に、こちらの動画をお送ります。

📚本: マンガでわかる! 音楽理論 - 僕は、全く音楽理論がわからない状態から音楽制作を始めたので、わかりやすい音楽理論の入門書が必要でした。こちらは全3冊あり、マンガで初心者にもわかりやすい解説が魅力です。

🎧DJ: Lee Burridge at Omnia Bali in Indonesia for Cercle - All Day I Dreamのボス「Lee Burridge」によるインドネシアのリゾート地でのDJ。CercleとLeeの良さが完全に溶け合って、極上の空間に仕上がっていますね。

週刊「スタジオ翁」メルマガ版 Vol.4

2023年4月14日発行

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