週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.39

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIを活用することで本来ならエンジニアに任せるような仕事も、個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AIを使った次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 今週の音楽ニュース

  3. 作曲とミキシングのアイデア帳

  4. DIYアーティストのためのマーケティング戦略

  5. Q&A

  6. Okina’s Picks

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

毎年、IFPIという団体が出している2022年のグローバルマーケットに関するレポートが、今年もリリースされました。

フルレポートは有料ですが、無料のPDFレポートでも音楽業界のおおよその全体像を把握することができます。

レポートによると、2014年を境に、音楽業界の市場規模は右肩上がりになっていますね。

CDやレコードなどのフィジカルや、ダウンロード販売の売り上げは下がり続けていますが、ストリーミング市場は2022年になっても大きく上昇し続けているのがわかります。

これはスマホ所有率の増加にも関わっていると思いますが、日本では2022年までスマホ保有率も右肩上がりとなっており、世界規模でも、発展途上国などでの人口増加に伴ってスマホが普及し続けているでしょうから、まだ数年はストリーミングの市場規模が伸び続けるのではないかと思います。

リスナーのエンゲージメントを高める目的で、レコードやカセットなどのマーチャンダイズを販売するのはアリだと思いますが、知名度を上げるならストリーミングに力を入れるのが最善策でしょうね。

他にもレポートには、日本が世界第二位のグローバルマーケットであることが書かれていたり、世界の各地域ごとの音楽市場の伸び率が書かれていたりと、読み物としても面白いです。

今後の世界の音楽業界の行方が気になる方は、ぜひチェックしてみてください。

📱今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。

  1. “シンセ・ベース”を再定義するソフト音源、Moog「MARIANA」が誕生…… 期間限定で50%OFFの8,100円で販売中→Moogのアナログシンセ「Minitaur」に似たデザインのシンセ音源が本家から登場。以前、ベースには必ずMinitaurのファットな音を使っていましたが、最近はUAプラグインのMinimoogを使っています。存在感のあるベース音源が欲しいなら、UA版MinimoogかMoogのMarianaのどちらかになってくるでしょう。

  2. 音楽スーパーファンプラットフォーム Renaissance が 170 万ドルを調達→このプラットフォームを使いたいかどうかは別として、この記事に書かれているレポートの内容に注目します。レポートには、「ゴールドマン・サックスの『ミュージック・イン・ザ・エア』レポートは、音楽のスーパーファンの直接収益化が、2030年までに世界中のアーティストに40億ドル以上の増収をもたらすと予測している。ルネッサンスの共同創設者兼最高経営責任者(CEO)のアルパン・デオル氏は、『われわれのデータによると、スーパーファンは8.5倍の支出をしている』と述べている。」とあります。この先、音楽家が生き残る道は、一部のスターを除いて、スーパーファンの獲得にあると思います。なので、僕たちインディーアーティストは番人受けする音楽を書くのではなく、マスには響かないけど特定の人には刺さるような音楽を作っていく必要があるのかもしれません。

  3. DOCtron IMC-500 は Stimming のマスタリング チェーンを 500 シリーズにもたらします→Stimmingはライブ向けマスタリングシステムDOCtronを販売していますが、今回500シリーズ版も登場しました。よほど売れているのでしょうね。僕もAbletonなどでライブをするなら、DOCtronを最終チェーンに入れたいと考えています。

  4. SRM Sounds がプロデューサー Max Richter 自身の Steinway Model D Spirio をベースにした新しいプラグインを発表→プロデューサー Max Richterと、元Spitfire Audio CEO Will Evansとのパートナーシップで作成されたピアノ音源。デモ音源を聴いてみましたが、かなり深みがあり心にグッとくるような温かいサウンドでした。ピアノ音源だとNative InstrumentsのNoireをよく使いますが、このSRM Soundsのピアノもかなり好みです。

  5. ニュース + カルチャーIOS DJ のヒント Algoriddim の djay Pro 5.0 が登場: 超高速ステム分離、柔軟なビート グリッド→AI搭載のDJソフトAlgoriddim「Djay Pro」に新たなバージョンが登場。ステム分離技術ではトップクラスのAlgoriddimですが、今回のアップデートで、ステム分離の機能がさらに向上しました。この会社、DJソフトだけでなく、制作方面にも今後、事業を展開していきそうな予感がします。iZotope Ozoneのステム分離より、Djayの方がよっぽど正確ですからね。

  6. Splice の年末データからプロデューサーが何に夢中になっているかが明らかに: アマピアノとフォンクは急上昇し、トラップはダウン

📘作曲とミキシングのアイデア帳

作曲やミキシングが上達するための、動画・記事・アイデアをご紹介します。

今週は、Ableton Liveのセンド/リターンについてのTipsをご紹介します。

リバーブやディレイを使うとき、 通常はセンドリターンを使うか、 トラックに直接エフェクトをかけると思いますが、トラック内にパラレルチェーンを作ることでもエフェクトかけることができます。

(確か、Studio Oneにも同じ機能があったと思いますが、今回はAbleton Liveで解説します)

ちょっとややこしいので、画像と一緒に説明しますね。

まずは、普通にリバーブやディレイなどのエフェクトをトラックに挿入します。

次に、画像のように、エフェクトの上部を右クリックしてグループを選択。

グループを作ったら、左側の 1番下にあるボタンをクリック。(オーディオエフェクトラックが開きます)

グループ化することで、 このようにエフェクトラックが作成されます。

下の画像のように、空白の部分を右クリックして「チェーンを作成」 を選択。

すると、新たに空のチェーンができました。

今どういう状態かというと、エフェクトがかかっていないチェーンと、エフェクトがかかっているチェーンの2つがあり、それらが同時に再生されることになります。エフェクトがかかっているチェーンは、センド/リターンで言うところのリターントラックと同じです。

なので、 エフェクトがかかっているチェーンの音量を調整して、エフェクトの量を決めましょう。

こうすれば、センドリターンを使わずにエフェクトをかけることができ、またリバーブやディレイではなく、これをコンプレッサーにすればパラレルコンプをかけることもできます。

この方法でエフェクトをかけることの利点は、各トラックに様々なエフェクトをかけたい場合、 膨大な数のリターントラックを作ることなくエフェクトがかけられる、というところ。エフェクトをたくさん使って音作りをしたいなら、この方法がおすすめです。

📊DIYアーティストのためのマーケティング戦略

音楽で稼ぐにはどうすればいいのか?どのようにリリースするのが効果的なのか?DIY(インディペンデント)アーティストが、より多くの人に自分の音楽を聞いてもらう方法を探っていきます。

Spotify Canvasの動画を作る方法

SpotifyにはCanvasという、音楽に合わせて再生される短い動画を投稿できるシステムがあります。

この動画を作るのに、カメラで動画を撮ったり、誰かに動画作成を依頼しても良いのですが、自分で簡単に作る方法があるのでご紹介します。

主に2つの方法があり、一つは著作権フリーの動画素材を使う方法、もう一つはAIを使った方法です。

DistrokidやTuneCoreを使ってストリーミングサービスに音楽を配信している人なら、各ディストリビューターの動画ジェネレーターを使って簡単な動画を作成することもできます。

もしそういった機能がないディストリビューターを使っている方は、Pexelsというフリーで動画素材が使えるサイトがあるので、そちらを使いましょう

もう一つは、AIを使った方法です。

この動画では、まずMidjourneyを使って画像を作成し、それをRunwayという、画像から動画を作るAIサービスに入れて8秒間の動画を作っています。

最近はMidjourneyが有料になったので、例えばAdobeのAI画像生成ツールを使ったり、ChatGPTに加入している人ならChatGPTの画像生成を使い、それをRunwayに入れて動画化すると良いでしょう。

個人的には、MidjourneyとRunwayを使った方法は、まだAIの精度が低いと感じているので、Pexelsにある既存の動画を使うのが良いのではないかと思います。逆に精度が低いことを利用して、リスナーの目を惹きつけると言う作戦もアリかもしれませんね。

ディストリビューションサービスを使って音楽を発信している人は、ぜひSpotify Canvasも利用して、リスナーのエンゲージメントを高めていきましょう。

🙋‍♂️Q&A

音楽機材のこと、制作のこと、ミキシングのこと、クラブのこと、何でもお気軽にご質問くださいませ。

「音楽作ってみたからアドバイス欲しい!」という方も、SoundCloudのプライベートリンクで送っていただければお答えします。

メールにて、お気軽にどうぞ。

※前回、メールアドレスが間違っていました。正しいアドレスはこちらです!

🧠Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

📚Book: Work Hard Playlist Hard - 年末年始に読もうと思い、購入しました。デジタル時代の音楽プロモーションに欠かせない「プレイリスト」の概念が丁寧に書かれた本です。

🛖New Open: 東京の真ん中、青山の地に「KEF Music Gallery Tokyo」がオープン: KEFのスピーカーはモニターとしても使えるほど精度が高いです。おしゃれで音が良いので、音楽鑑賞用に購入するのもオススメ。以前は丸の内にお店がありましたが、このたび表参道に移転してリニューアルオープンしたので、気になる方はぜひ足を運んでみてください。

🕺🏻Live: Viken Arman & Michel Portal LIVE @ Théâtre du Châtelet: この動画は当初、期間限定の公開だったのですが、いつの間にかViken ArmanのYouTube公式にライブ映像がアップロードされていますね。めちゃくちゃかっこいい、モジュラーとサックスのライブです。

🎬Film: 音響ハウス Melody-Go-Round: 坂本龍一やユーミンなど、国内の超一流アーティストがレコーディングしている「音響ハウス」に関するドキュメンタリー映画。回想多めの映画なので、昔を懐かしむおじさんにしか受けなさそうな退屈な映画です。Prime Videoで見かけても、買わないようにしましょう。

週刊「スタジオ翁」メルマガ版 Vol.39

2023年12月15日発行

Blog: https://studio-okina.com/

HP: isseykakuuchi.info