週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.25

  1. 近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

先日、Sonyの新技術VMEを体験してきました。

VMEとはヘッドフォンだけでイマーシブ空間を再現するための技術で、専用スタジオで自分の耳を測定すれば、ヘッドフォンをつけた状態でも、まるで本当に前後左右から音が飛んでくるように聞こえます。

AirpodsとApple Musicを組み合わせれば、空間オーディオに対応している曲なら擬似Dolby Atmosを体感することができますが、擬似Dolby Atmosと、実際に自分の耳を測定して正確に再現されたDolby Atmosでは、聴こえ方に天と地の差があります。

僕たちは普通、音が前後左右のどこから聞こえてくるのかを瞬時に判断できますが、それは脳が顔の凹凸や耳の形状を把握しており、その形状によって特定の周波数が減衰or増幅した音が耳に届くことで、音の方向を判断しているからです。

実際の測定では、耳の奥に小型マイクを装着し、9.1.4chの各スピーカーから出てくる音を、鼓膜にもっとも近い距離に取り付けられたマイクで測定することによって、まず頭部伝達関数(HRTF)というパーソナルデータを割り出すことができます。

次にヘッドフォンを装着してもう一度測定すれば、ヘッドフォンのドライバーから鼓膜までの距離で変化する周波数の変化を測定し、補正することができるので、どんなクセのあるヘッドフォンでもフラットな周波数応答を実現することができます。

この2つの測定データを組み合わせることで、スタジオのリアルな音を、どんな環境でもヘッドフォンで再現できるというわけですね。

測定後にApple Musicを聴いたり、今まで作ったサラウンドの映画などを視聴していますが、慣れればヘッドフォンだけでもサラウンドミキシングできそうだなという手応えは感じられました。

今年の春にリリースされたDolby Atmos化のためのプラグイン「Fielder Dolby Atmos Composer」なんかを使えば、音楽のDolby Atmos化も手軽にできそうなので、今年中に試してみようと思っています。

  1. 今週の音楽ニュース

「音楽業界の動向」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。

  1. ライムワイヤー、ポリゴン・ブロックチェーン上でAIクリエイター・スタジオを立ち上げ→2000年代に世界を席巻した、P2Pファイル交換サービス「LimeWire」がAIコンテンツを生成できるプラットフォームを開設しました。LimeWireは海賊版音楽ファイルの交換プラットフォームとして使われていた過去があり、世間の印象は良くないようですが、今後どうなっていくのか楽しみなサービスの1つです。

  2. DJ.Studio2.0はAIが支援する「DJのためのDAW」で、ミックスをAbleton Liveにエクスポートできます。→DJミックスをAbleton LiveなどのDAWで作っている人に朗報です。AI技術によって、トランジション、クロスフェードの割合、フィルター・アクション、ベースのカット方法などのパラメーターを細かく調整することができるので、選曲以外手間をかけずにサクサクとDJミックスを作ることができます。月9ドルのサブスクなのでたくさんDJミックスを作る機会のない人にはおすすめできませんが、プロモで大量にミックスを作らないといけなDJにとってはとても便利なツールだと思います。

  3. Native InstrumentsのMusic Production Suite 6にOzone 11、Nectar 4、Guitar Rig 7 Proが登場→まだ全て試せていませんが、どれもかなりアツいアップデートですね。特にOzoneのAI機能には日頃からお世話になっているので、Ozone 11でどれくらいアップデートされているのか楽しみです。

  4. KIT Plugins launch BB A5 channel strip→アメリカナッシュビルの著名スタジオ「Blackbird Studio」が手掛けるKIT Pluginに新たな仲間が加わりました。APIの音や操作性は大好きで、僕はUADのものを使っているのですが、今からAPIモデリングプラグインを買うなら、こちらも候補に入ってくるでしょう。

  5. Focusrite Scarlett 4th Gen interfaces→Focusriteの入門者向けインターフェースが新しくなりました。前モデルはこちらの記事でもレビューしていますが、Focusriteは操作性も良いし使いやすいのでおすすめです。オーディオ回路は再設計されていて、音質も向上しているようです。

  1. 作曲とミキシングのアイデア帳

作曲やミキシングが上達するための、動画・記事・アイデアをご紹介します。

FETコンプレッサーを使いこなす

こちらの動画では、FETタイプのコンプの基礎から実例がわかりやすく紹介されています。

コンプを使い慣れてきたら、音に合わせてFET、VCA、VARI-MUといったタイプを使い分けることで、さらにミックスが楽しくなります。

例えば、動画で紹介されているFETコンプは速いアタックが特徴的で、このタイプはドラムにかけてスナッピーで迫力のある音に仕上げたり、ボーカルの一時的なピークを取り除くのによく使われます。

もちろんDAW付属のコンプでもミックスはかなり追い込めるのですが、こういった特化型コンプを使ってミックスすることで、目的地まで素早く到達できるというメリットもあります。

FETの中では1176コンプが定番で、過去にも記事に書いていますが、ミキシングに慣れてきた方は次のステップとして、FETコンプを使いこなすことを意識してみるのも良いかもしれません。

https://studio-okina.com/1176-compressor/

  1. ブログ更新のお知らせ

音楽制作をしたことのない人は、どこから音楽制作をスタートさせれば良いのか?今の時代だからこそ使える便利なツールやAIを活用して、音楽制作を快適にスタートさせるための方法を記事にまとめています。

「何も楽器が弾けないけど、音楽制作をやってみたい」そんな人に特におすすめの記事です。

  1. Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🎙️Magazine: How to access your DIGITAL Sub - 最新の機材や世界の音楽業界で流行っているものは、Sound on Sound Magazineの雑誌でチェックすることが多いのですが、実はWEB版なら誰でも無料で見ることができます。英語がわからなくても、パラパラめくって見ているだけでも面白いので、気になる方はぜひリンクから登録してみてください。

🎹Course: アラン・マイヤーソン、ハンス・ジマーの「デューン」サウンドトラックをミックス|予告編 - 最新人気映画のミキシングの様子が覗けるなんて、さすがはMix with the masters。ミキシングのプロを志す人にはかなりおすすめのプラットフォームなので、ぜひチェックしておいて欲しいところ。年間料金が少し高いですが、本社から日本向けに20%オフのクーポンコードを発行してもらったので、登録する方は、こちらをお使いください。「MWTMJAPAN」

🎵Thread: GroupDIY Audio Forum - DIYでオーディオ機器を作るなら、海外掲示板が参考になります。Gearspaceも良いのですが、こちらはDIYに特化した掲示板なので、かなりマニアックな議論が交わされています。

🔌Plugin: Max for Live用のシェーピング付き8タップディレイ「Petal」 - なんだか可愛らしいEventideのハーモナイザーのようなディレイが販売されています。日本人の方が設計されてるようですね。この方が販売する他のプラグインも、面白そうなものがいくつかあります。

週刊「スタジオ翁」メルマガ版 Vol.25

2023年9月8日発行

Blog: https://studio-okina.com/

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