週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.18

  1. 近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

今週は、飯田橋にあるヒカルランドのスタジオにお邪魔しました。

「ヒカルランド」をご存知ない方のために説明すると、「日本で一番あやしい出版社」です。笑

スピリチュアル系の本を大量に出していて、これ系が苦手な人なら、名前を聞いただけで「うっ」となってしまうのではないでしょうか。

飯田橋に本屋もあるのですが、僕は本屋の方ではなく、スピーカーを試聴するためにスタジオに伺いました。

なぜ「量子」というワードがついているのかは不明ですが、再生された音は心地よく全方位に広がり、空間全体が鳴っているような素敵なサウンドを奏でてくれました。

ついでにSonyのテープリールや、音をよくするための様々な機構がついたレコードプレイヤーなどを聞かせていただきましたが、そちらもとても良い製品で、「まるで目の前でアーティストが演奏しているかのようなサウンド」を体験することができました。

楽器の1つ1つが、本当に手に取るように感じられ、「この音でミックスできたら、相当良いものが仕上げられるだろうな」と感じました。

スタジオ専属のエンジニアの方は、もともとSonyでCDの開発をしたり、マイケルジャクソンが来日した際にはレコーディングに携わったりしたという方。

この方が監修している中型のモニタースピーカーもあるそうで、それも気になったので、来月あらためて聴きに行ってみることにしました。なんでも、「Genelecやムジークより自然で疲れないサウンド」とのことで、相当楽しみにしています。

その日は、一生手放すことはないだろうと思って購入した、Amphionのスピーカーを手放す日になるのかもしれません。

  1. 今週の音楽ニュース

「音楽制作」「ミキシング」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。

  1. AI生成音楽プラットフォームMubert、カタログが1億曲を超えたと発表→音楽生成AI「Mubert」で作られた楽曲が、1億曲を超えたようです。最も人気のある楽曲はLo-Fi、アンビエント、チル。つまりこれらのジャンルは、AIとの相性がよく、人間のプロデューサーが大きく減ってしまう領域なのかもしれません。確かにアンビエントとかドローン音楽は、「これ、AIでも作れそうだな」といった曲が既にたくさんリリースされているように思います。

  2. コルグ「Gadget VR」、バーチャル・リアリティの「未来のDAW」を提供→VRを使った未来のDAW、コンセプトとしては面白いですが、実現にはまだまだ時間がかかると思います。100年くらいしたら、VRを使ってDTMをするのが当たり前の世の中になっているかもしれませんね。

  3. 音楽のためのハンドジェスチャー:Leap Motionに対応したGECO 2.0が登場→11年ぶりに、Leap Motionというトラッキングデバイスの新型が発表されたのに伴い、ハンドジェスチャーによるMIDIの操作を可能にするGECOに、新たなバージョンが登場しました。VRと組み合わせれば、音楽制作は今までのパソコンを使った「作業」から、より楽しく直感的なものになっていくでしょう。個人的にもかなり気になる機材です。この動画のように、直感的に演奏できたら最高だと思いませんか?

  4. ジャン=ミシェル・ジャール&エレクトロニックカーのためのサウンドデザイン→著名シンセサイザー奏者であるジャン=ミシェル・ジャールが、サウンドデザイナーとして電気自動車の設計に参加しています。電気自動車は静かすぎるゆえ歩行者が車が近づいているのに気が付かないことがあるので、このようにサウンドデザイナーを雇ってエンジン音などをデザインする事例は今後も増えていくことでしょう。ちなみに日産リーフには、すでにエンジン音を出すためのシンセサイザーが搭載されています。

  5. 瞑想アプリのCalmがSpotifyと提携し、ストリーミングサービスを通じてリラクゼーションコンテンツを提供→有名な瞑想アプリCalmが、ついにSpotifyと連携しました。先ほどのMubertの例を見てもわかりますが、もうリラクゼーションミュージックはAIが作る時代なんですね。アンビエントなどのアーティストは、作品の良し悪しよりも、その作品に込めた意味や思いを視聴者にどう伝えるか、という部分が大切になってくると思います。

  1. 作曲とミキシングのアイデア帳

作曲・ミキシングが上達するための、動画・記事・アイデアをご紹介します。

ミキシングの最終段階で使えるテクニックをご紹介します。

MetricABやFabfilter Pro-Qなどのツールがあると便利ですが、DAW付属のEQやマルチバンドコンプでも試すことができるこのテクニック。

やり方は記事にも書いていますが、これは「超低域」「低域」「中域」「高域」「超高域」と5段階に帯域を分割し、それぞれの周波数ごとにリファレンス曲と比較しながら音を調整していく手法です。

全体を聴いてリファレンスに近づけようとしても、ミキシングの経験値がないとなかなか難しいのですが、帯域を分けてしまえば、割と簡単にリファレンスのEQバランスやダイナミクスに近づけることができます。

帯域を分けることで、注意を向けるべき音が減るので、音の比較がしやすくなるのでしょうね。

サブウーファーがない環境だと低域が聞こえづらいと思うので、このテクニックはヘッドフォンで試してみることをおすすめします。

各帯域のダイナミクスが揃うと一気にプロっぽい音になるので、マルチバンドコンプがあると、このテクニックを最大限に活かせるでしょう。

マルチバンドコンプを持っていない方には、マスタリングをこれ1つで完結できるiZotope「Ozone 10」がおすすめですが、必ずしもマルチバンドコンプは必要なわけではありません。

EQを使って帯域ごとにリファレンスに近づけるだけでも、ミックスの精度は上がるので、ぜひ試してみてください。

  1. ブログ更新のお知らせ

アナログライクな気持ちの良いコンプが登場しました。

1176のステレオバージョンとして登場したUrei 1178ですが、このプラグインも含めて、音のキャラクターは1176とずいぶん違います。

ブログでは、Pulsar 1178の魅力を、1176との音の比較も交えつつご紹介しています。

個人的に、かなりおすすめのコンプ。

  1. Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🎵Sound: Sounds of the Nightmare Machine - 映画のサウンドデザイナーが、自分だけのオリジナル楽器で音作りをしている動画です。動画のタイトル「Nightmare Machine」にふさわしい、ホラー系サウンドを簡単に作り出すことができるこのマシン。音楽制作にも使えそうですが作るのが大変なので、気になった方は、こちらのAzzam bellsを買うのがいいと思います。

📖Book: 南洋のソングライン - 年に一回、浅草で開催されるブックマーケットで見つけた一冊。東京と屋久島の2拠点生活を実践する、国本さんという方のひとり出版社で、「サウンターマガジン」という雑誌も制作されています。ブースにいらっしゃったので少しお話ししたのですが、この本がとても面白いとのことで即購入。沖縄に存在する民謡「まつばんだ」を追った、ドキュメンタリー作品です。

🖊️Column: 映画オーディオを永遠に変えた5つの映画 - 音と音楽の可能性を探究する、5つの映画が紹介されています。そのうちの1つ「メモリア」を観てみましたが、1時間ほどで飽きて観るのをやめてしまいました・・・が、それもそのはず。実はこれは「誰もが寝る映画を作る男」の異名をもつ、タイのアピチャッポン監督による作品だったのです。登場人物が、iZotopeを使って主人公の聞こえる幻聴を再現しているシーンには少しキュンとしましたが、スローテンポすぎてついていけませんでしたね。映画体力のある方は、ぜひご覧になって感想を教えてください。

🎞️Film: Nope - 宇宙人もののホラー映画「Nope」。音の勉強にもなるかと思って観てみましたが、まんまと音に引き込まれてしまいました。後半にバイノーラル録音が使われていたのが、個人的には印象的でしたね。作品自体はメッセージ性が強めで、解説を見ないと理解できないところも多々ありますが、音と映像に引き込まれるので、アピチャッポンの映画よりはるかに観やすいと思います。

週刊「スタジオ翁」メルマガ版 Vol.18

2023年7月21日発行

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