週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.16

  1. 近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

最近、Genelecで働く知人から「GLM Grade Report」なるものを教えていただきました。

Genelecといえば、フィンランドの有名スピーカーブランドですが、カフェからDolby Atomosスタジオまであらゆる場所で見かけるので、音楽制作をしている人なら、どこかで一度は目にしたことのあるブランドだと思います。

GenelecのスピーカーにはGLMという補正ソフトが付いていまして、これはマイクで部屋を測定することにより、部屋のクセを取り除いて、バッチリ音響調整されたスタジオのようなサウンドに近づけられるというもの。

「マイクで測定して、スピーカーの音を補正する」というところまでは知っていたのですが、さらにGrade Reportというのを申請すれば、数十ページにわたって、自分の部屋のどこに問題があり、どうやって改善できるのかといった情報が書かれたレポートが、メールで送られてくると聞いて驚きました。

こちら(https://www.genelec.jp/glm/glm-grade/)に詳しいレポートの内容が載っていますが、初期反射、残響時間、周波数レスポンスなどの部屋に関するあらゆる情報を得ることができます。

おそらく、ここまでのレポートを提供してくれる補正システムは、他にないんじゃないでしょうか?

レポートがすべて英語であることと、データを読み取って、適切に部屋の調整をするには知識がが必要なことから、誰にでもおすすめできるわけではありませんが、Genelecのスピーカーを持っている人、またはこれから買おうと思っている人はぜひ参考にしてみてください。

  1. 今週の音楽ニュース

「音楽制作」「ミキシング」「最新の音楽ギア」など、音楽制作をする全ての人に役立つ新鮮でホットな情報を、毎週発掘してお届けします。

 

  1. Bitwig 5.0 BIG UPDATE - 知っておくべきすべてのこと→ついに、Beta公開されていたBitwig 5が公式に販売されました。目玉は、モジュレーションに関するアップデートが目玉ですね。Bitwig 5なら一般的なパラメーターだけでなく、テンポやボリュームフェーダーにまでもモジュレーションがかけられます。任意のエンベロープを作成することもできるので、他のDAWには真似できないような、細かく複雑な動きを表現できます。

  2. Solarusは、太陽系の動きを利用したフリーのAbleton Liveモジュレーションツールです。→惑星の動きとモジュレーションの組み合わせは、真新しいものではありませんが、Solarusはシンプルに操作でき、かつ実際の惑星の動きを丁寧に再現したモジュレーションツールとなっています。はたして、これが音楽制作で使えるのかは分かりませんが、インスタレーションや実験的な音楽制作には使えるかもしれません。

  3. Splice Create→以前にも紹介した、ブラウザ上で使えるSpliceの制作ツール「Splice Create」がパワーアップしています。Lo-fiやテクノなら、このツールでサクっとラフスケッチをまとめてDAWで展開すれば、すぐに音楽が作れてしまいます。

  4. Klevgrand TomofonがMPEサポートなどを追加→MPE対応ソフトが増えてきていますね。Klevgrandのシンセプラグイン「Tomofon」がMPE対応したので、最近登場したAbleton Push 3を使って、ピッチやベロシティの細かいコントロールが可能になります。MPE対応のプラグインが増えてくると、Push 3が欲しくなってしまいますね。

  5. 最高の小型ダイアフラム・コンデンサー・マイクを比較【ビデオ】→アコギ、ドラムのオーバーヘッド、シンバルなどの繊細な音を拾うのに最適な、小型ダイアフラムのマイクを比較する動画です。JZ BT 202, AKG C 451B, Shure SM81, Neumann KM184, Schoeps MK4, sE Electronics sE8, Rode NT3といった7本のマイクを、実際に録音したものを聴き比べることができます。

  1. 作曲とミキシングのアイデア帳

作曲・ミキシングが上達するための、動画・記事・アイデアをご紹介します。

部屋を整えるより部屋に慣れる

人に聞いた話ですが、海外のスタジオでは、窓が開けっぱなし、ルームトリートメントも日本人ほどこだわっていないように見える、でもミックスされた曲、つまりアウトプットはめちゃくちゃ良い、ということがあるそうです。

その時は何故そうなるのかわからなかったのですが、結局、ルームトリートメントよりも、そのリスニング環境に慣れることの方が大切なのではないか、という結論に至りました。

もちろんルームトリートメントが全くされていない部屋は、聞こえない周波数帯域が出てきたりするので論外です。

ただ、一定のレベルまで整えられた部屋なら、多少低音がブーミーでも、低域の位相がちょっと狂っていても、ステレオイメージが広すぎていても、慣れてしまえば問題なくミックスまで出来てしまうんだなと最近感じています。

理由としては、最近いろんなスタジオに行って音を聴いているのですが、バチっ!と低域から高域まで整った、完璧な部屋に出会ったことがないから。

どんなに高級なスピーカーが置かれていても、サウンドのどこかしらに問題を抱えているスタジオがほとんどです。

マスタリングスタジオと呼ばれる、本当に緻密な作業を必要とするスタジオは、また別なのかもしれませんが、少なくともミックスするだけなら、「ベーストラップやディフューザーで部屋を完璧に整えて、SonarworksやTrinnovで補正して…」なんて作業よりも、「ミックス専用の部屋を作ってしまって、物の位置を動かさない」「その環境でミックスをし続けて、音に慣れてしまう」という方が大切なんだと思います。

僕の場合は、すぐにスピーカーの配置を変えたくなったり、物の位置が頻繁に変わるのでSonarworksは必須なのですが・・・

もし、「ミキシングを極めたいけど、部屋を整えるには大金がかかってしまうし・・・」と半ば諦めかけてしまっている方は、とにかく部屋の音に慣れてしまうということを意識すると良いと思います。

その部屋で仕上げたミックスを持ち出してクラブで聞いてみたり、友人の家で聞いてみたりすることで、自分の部屋の特性を少しづつ理解していき、スピーカーや部屋鳴りと友達になっていくのが、多くの人にとって現実的なんじゃないかと、ふと感じたというお話でした。

  1. Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

🎞️Masterpiece: Macの向こうから:スカイウォーカー・サウンド | Apple - スターウォーズで有名なSkywalker Soundの音がどうやって作られているのかを垣間見ることができます。フォーリーの方々の、音が好きでたまらない様子を見ていると、「ああ、これくらいの情熱を持った人でないと、いい作品は作れないんだな」と改めて感じるとともに、熱い気持ちをお裾分けしていただけます。

🎙️Interview: How I Became The Worlds Best DJ With Only One Arm: Black Coffee | E183 - The Dairy of a CEOというYouTubeチャンネルで、南アフリカのスーパースターDJ「Black Coffee」がインタビューを受けています。DJとしての技術的な面よりも、どうやって彼は成功し、彼が何を考えて生きているのかを知ることができる動画。

🎹Q&A: 作曲家だけど「音楽理論について」質問ある? - 作曲家/ライブパフォーマーのJacob Collierが、WiredのYouTubeチャンネルで、分かりやすく面白い音楽理論の解説をしてくれています。Jacobの歌うOver The Rainbowがとにかく素敵。

📺Tutorial: Richie Hawtin Uses Bitwig Studio as a Live Performance Instrument - Bitwig 5がリリースしたので、Richie HawtinのBitwigを使ったライブパフォーマンスをご紹介。Richieが、ただひたすらライブで音を作っていく様子を見ることができます。

週刊「スタジオ翁」メルマガ版 Vol.16

2023年7月7日発行

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