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スタジオ翁のメルマガ vol.137
このメルマガは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。
プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIや最新のテクノロジーを活用することで、本来ならエンジニアに任せるような仕事も個人で完結できるようになりました。
あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。
目次
お知らせ
近況
作曲とミキシングのアイデア帳
今週の音楽ニュース
ブログ、note更新のお知らせ
サービス・書籍のご紹介
📢お知らせ
今年の秋にリリースした、Splice講座の配信プラットフォームを変更いたします。
初期にご購入いただいた方には、度々お手間を取らせてしまってすみません!
今回の変更は、月々のメンテナンス料が不要なプラットフォームへ移行することで、より多くの方にお求めやすい価格で届けるためです。これにより運営コストを削減し、価格に反映させることができました。そしてこれを機に、音楽制作にお悩みの方が、より手に取りやすい価格設定にいたしました。
正直、この内容でこの料金は安すぎるかなとも思いましたが、「気になっているけれどなかなか手が出ない」というご意見もいただいていたことから、思い切った価格設定に踏み切っています。
また、維持費のかからないプラットフォームに移ったことで、「頑張って売らなければ」という変な商売心も排除できます。そうして余計なマーケティングに時間を割くことなく、その分、内容を充実させたり新たなコンテンツをお届けする時間を作ることにしました。
なお、すでに以前の価格でご購入いただいている方には、お知らせのメールとともに差額の返金処理をさせていただいております。
これからも、どうぞよろしくお願いします。
📝近況
ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

今週は、ある実験をしてみました。
先月訪れた「Labyrinth」というフェスで、ウォーターベッドの下にサブウーファーを仕込み、特殊なサウンドを全身で浴びてリラックスするというシステムを体験したのですが、これがとても気持ちよく、どうにか自宅で再現できないかと考え、ベッドに小型サブウーファーを設置してみたのです。
具体的な実験方法は、以前「Vie Tunes」というアプリ向けに提供したサウンドをAirPodsで聴きつつ、Ableton Liveで制御したサブウーファーの低音を同時に浴びるというもの。
今回は深いリラックス状態を目指し、睡眠直前に現れる「シータ波」の誘導を試みました。LFOを用いて低音を周期的に揺らし、1秒間に6回の振幅(ドドドドドという振動)を作ることで、脳波がシータ波になるよう促します。
効果はすぐに実感でき、開始からたった数分ほどでぐっすりと眠ってしまいました。ベッドが揺れるほどのパワーはなかったため、多少の物足りなさはありましたが、将来的にはベッドを直接揺らす専用スピーカーやウォーターベッドを導入できれば、より理想的な体験になると思いますね。
ちょうど今週、都内にある特殊な脳波測定器を見に行ったのですが、それは脳波を計測するだけでなく、特定の脳波(シータ波やガンマ波など)を誘発する光刺激を与えることができる特殊なデバイスでした。そうした音以外の多感覚(マルチモーダル)刺激を同時に与えることは、「脳波エントレインメント(脳波同調)」の効果を最大化すると言われています。今回は音(と軽い振動)のみの実験でしたが、そうしたデバイスを併用すれば、さらに効果が高まって面白いだろうなと感じました。
実験としては予想以上にうまくいき、「即入眠」という素晴らしい効果が得られたので、満足です。
今後も、音とテクノロジーを使った実験を続けていきたいと思います。
📘作曲とミキシングのアイデア帳
作曲やミキシングが上達する動画・記事・アイデア・最新のAIプラグインやAI作曲ツールをご紹介します。

アーティストの新たな成功モデル「アーティスト・クリエイター・ハイブリッド」とは?
ここ最近お話ししているように、やはりアーティストが「音楽一本」で食べていくのはとても難しい時代です。
実際、アーティストがアメリカの最低賃金相当額を稼ぐだけでも、月間60万回近くのストリーミング再生が必要だと言われています。「60万回」といえば相当限られたアーティストにしか到達できない数字ですし、仮にそこまで再生されても最低賃金ほどにしかならないのであれば、これを目指すのは最善の選択肢とは言えません。
この動画で紹介されているのは、これまでの「ストリーミング再生数に依存する収益モデル」ではなく、アーティストが単なるミュージシャンではなく「コンテンツクリエイター」として活動するアプローチです。
このモデルの核となるのは、音楽を「唯一のプロダクト」とはみなさず、アーティスト自身のライフスタイルや個性、制作過程などを「コンテンツ」とし、ファンとのコミュニケーションを通じて収益を得るという点です。
つまり、「音楽で人を引きつけ、コンテンツでつながりを築き、コミュニティで収益化する」というサイクル。
核となる思想:音楽は唯一のプロダクトではない
「音楽は君の唯一のプロダクトじゃない。君の人生がコンテンツになるんだ。(中略)自分の人生をドキュメントするんだ。全ての会話、全ての取引、全てがコンテンツだ。」
このモデルの収益構造は、具体的に以下のような感じで紹介されています。
1. 音楽が人々を引きつける (Music brings people in): 音楽が最初の接点となり、潜在的なファンを惹きつける。
2. コンテンツが繋がりを築く (Content builds connection): 音楽以外のコンテンツ(制作の裏側、ライフスタイル、価値観など)を通じて、ファンとの人間的な繋がりを深める。
3. コミュニティが収益を駆動する (Community drives the revenue): 強固な関係性で結ばれた小規模でも熱心なコミュニティが、グッズ購入、イベント参加、直接支援などの形で安定した収益源となる。
そして実際、大量のストリーミング再生数を稼ぐことなく、わずか1,000人の月間リスナーで、1アルバム200万円ほどの収益を上げた「コミュニティ主導型アーティスト」の例も紹介されています。
ケーススタディ:Jadenのコミュニティ主導型収益
アーティストのJadenは、このモデルの力を示す完璧な事例である。
• 成果: わずか1,000人の月間リスナーで、Tigaの最新アルバムで最も再生された曲(300万再生、約15,000ドル相当)と同額を稼ぎ出した。
• 手法: 2年間にわたり、ほぼ毎日Twitter Spacesでファンと交流し、緊密なコミュニティを構築。「音楽のためではなく、彼自身のために人々が彼を好きになる」状況を作り出した。その後、自身の音楽を表現したコレクティブルを販売し、成功を収めた。
• 彼の哲学: 「自分自身をブランドとみなし、音楽はその木の一本の枝に過ぎないと考えれば、大きな成功を収めることができるだろう。」
このように一過性のバイラルヒットで再生数を稼ぐよりも、少数のコアなファンを持つことが、より大きく安定した金銭的価値を生み出す可能性があるのです。
また、動画の中では「SNSで大量のフォロワーを持っていても、それが全く収益につながらない」例も紹介されています。こうしたアーティストは、SNSでの注目を直接収益化しようとするのではなく、「コミュニティ構築の出発点」と捉えることで、段階的にお金を稼ぐことができるかもしれません。
そして、そのための3つの戦略が挙げられています。
アーティストが実践すべき3つの戦略
このハイブリッドモデルを自身のキャリアに導入するためには、以下の3つの戦略的思考が不可欠である。
1. アテンションをコミュニティ構築の出発点と捉える フォロワー数や再生回数は成功の指標ではなく、コミュニティ構築の始まりに過ぎない。得られた注目を、ファンとの関係性を深めるための第一歩と位置づける必要がある。
2. クリエイターのように考え、行動する 自身のライフスタイルや興味を積極的にコンテンツ化する。例えば、ガーデニングが趣味のアーティストが、その過程をファンと共有し、アルバムリリース時に限定のガーデニングキットを販売したり、ファンと一緒に植物を植えるイベントを開催したりすることが可能になる。これにより、ユニークな体験と収益源が生まれる。
3. 音楽をレバレッジとして活用する 収入源をストリーミングだけに限定しない。音楽を通じて構築したオーディエンス、ブランド、そして世界観を「レバレッジ」として活用し、複数のテーブルから収益を得ることを目指すべきである。
この戦略を最もうまく活用している最高峰の事例の一つとして、リアーナが挙げられます。彼女は『Fenty Beauty』という自身のブランドを持っていますが、これは音楽で得た注目をレバレッジとしてビジネスを拡大させ、アーティストから実業家へと転身しました。
既に良い音楽をリリースしていて注目度もあるけど、なかなか収益に結びつかない…という人は、音楽をレバレッジとして活用し、リアーナのように多角的に収益を得ることも考えてみましょう。
いずれにせよ、これからの時代、アーティスト一本で食べていくのは非常に難しくなってきます。アーティスト自身の思想をコンテンツ化し、コミュニティを構築して稼いでいくスタイルこそが、今後の主流になっていくでしょうね。
📰 今週の音楽ニュース
スタジオ翁独自の視点で厳選した、世界の最新音楽ニュースをお届けします。

BBC Introducing: AI使用アーティスト起用を巡る20年の努力と報酬格差への反発。
B00GA: HainbachとAudioThingによる音響実験。
AI Tools Study: ミュージシャンのAI活用動向を分析するAri’s Takeによる最新レポート。
MeloSurf: Ableton Liveを音声操作するAIアシスタントが示すDAWの新しい未来像。
Sensei: Ableton LiveとUnreal Engineを統合する3Dビジュアル生成ワークフローの革新。
Warner-Suno: WarnerがSunoおよびUdioと提携することで進むメジャーとAI音楽の本格連携。
Splice Live: SpliceとAbleton Liveのネイティブ統合によるサンプルワークフローの高速化。
Klay: AIストリーミング企業Klayがメジャー3社と契約し実現するAI楽曲配信基盤。
Gyro: 10k AudioのGyroによる回転アルゴリズムを用いた立体的ミックス処理。
AI Creativity Report: ミュージシャンのAI活用実態を示す最新調査による創作トレンドの可視化。
🎧サービス・書籍のご紹介

<Splice作曲メソッド>
これは、単なる”Spliceの使い方講座”ではありません。
音楽理論や楽器の演奏からスタートする「従来の作曲法」とは異なるアプローチにより、「アイデアが浮かばない」「どこから始めればいいか分からない」といった悩みを解決。アイデアがない状態から1曲を完成させる、実践的なテクニックを身に付けます。
さまざまなジャンルの音楽をゼロから作っていく様子までご覧いただくことで、実践に即した体系的なメソッドを学び、良い音楽を量産する方法を身に付けることができます。
<AI YouTubeチャンネル>
実験的にAIカバーソングを生成し、YouTube上でリリースしています。
ただAI生成するだけでなく、エディット、マスタリング、場合によってはステムミキシングを行い、他にはない最高品質のAI音楽を作っています。実験的なコンテンツも多数投稿予定です。
<著書>
作曲AIに関する書籍です。
アイデアの出し方から作曲、アートワーク制作に至るまで、音楽制作からリリースまでの一連の流れにAIをフル活用する方法を解説しています。購入はKindle Unlimitedで。
<Suno AI、Udio用プロンプト生成ツール>
ChatGPTで使える、プロンプト生成ツールを作りました。
使い方は簡単。自分の好きなアーティスト名を入力するだけで、そのアーティストの特徴を出力してくれます。それを、Suno AIやUdioなどのプロンプトとして入力することで、そのアーティストのテイストに近い音楽を、AI作曲ツールが生成してくれます。
プロンプト選びに悩んでいる方は、ぜひ活用してみてください。
<Chrome拡張>
AI時代は、MYOG(Make Your Own Gear)の時代です。
アーティストが道具を自分で作る未来を模索中。その研究成果として2つのウェブアプリを開発しました。
週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.137
2025年11月28日発行
Blog: https://studio-okina.com/