週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.125

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIや最新のテクノロジーを活用することで、本来ならエンジニアに任せるような仕事も個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 作曲とミキシングのアイデア帳

  3. 今週の音楽ニュース

  4. サービス・書籍のご紹介

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

先日、マスタリングを担当した楽曲がリリースされました。

以下、楽曲紹介文です。

シングル「SPRING」が公開されました。 新しい楽器による連作が始まります。 身の回りにある様々なもの。素材。 その全てが 特有の音=声 を持っています。 見えてはいるのに気づかれない声のかたち。その響きを引き出すために、特別な楽器を作りました。 この作品の声はバネ。その振動にギターが点を打ち、 一見ただのノイズに思える中から、美しい調和が現れてきます。 何かインスピレーションになったり、穏やかな時が流れれば嬉しいです。

亜門

元の音楽が美しいのはもちろん、マスタリンングによってさらに生命感を引き出せたかと思います。アンビエント好きな方はぜひチェックしてみてください!

さて、バイブコーディングによるChrome拡張制作シリーズ第一弾の「Spotify Memo」が、Chromeウェブストアから無事リリースされました。

Spotifyで視聴中の音楽の好きな箇所に、メモを残せるというシンプルな機能の拡張です。

ブラウザでしか機能しないので、実用的かと言われればそうでもないのですが、とりあえずバイブコーディングして実際にちゃんと動くアプリを作り、審査&公開まで行うというプロセスを体験してみたかった!という気持ちで今回は挑戦しました。

いま作ってる第二弾は、実用的でそれなりに需要もありそうなものです。

現在、エラーの修正を行なってますので、リリースしたら、またこちらでご紹介いたしますね。

あと、1点。

先月、革命的な音楽生成AIが登場したので、ご紹介します。

こちらの「Producer.AI」です。

何がすごいかというと、現在主流のSunoAIが単語の羅列による一発生成なのに対し、こちらはChatGPTのような対話型生成を採用しています。

つまり、AIと対話を重ねながら音楽をブラッシュアップしていき、さらには自然言語によってEQやリバーブなどのミキシング作業まで行ってくれる画期的なもの。

すでに使ってらっしゃる方もいるかもしれませんが、現在、登録制となっていて誰でも使える状況ではありません。

僕もついこの間、使えるようになったばかりですが、一人だけ招待できるコードがついていたので、日頃の感謝もこめて、先着1名をこちらでご招待いたします。

まだ、音楽生成の精度や言語処理などにおいて未熟なサービスではありますが、かなり未来を感じます!

ぜひ、今後の主流になるであろう、対話型の音楽生成AIを体感してみてください。

AIについて書き留めておきたいことがたくさんあるので、今後、こういったこういったAI系のニュースなどはnoteにまとめていこうと思います。

こちらのnoteをフォローしておくことで、海外で広がる音楽×AIの動きや、作曲AIの最前線がわかる。そんな場所にしていく予定です。

よかったらこちらもチェックしてみてください。

📘作曲とミキシングのアイデア帳

作曲やミキシングが上達する動画・記事・アイデア・最新のAIプラグインやAI作曲ツールをご紹介します。

この動画で紹介されている、「マスタリングのみでミックスに深みを出す方法」がとても興味深かったのでご紹介します。

マスタリングエンジニアにマスタリング用として送られてくるトラックは、一つのオーディオファイルとしてまとまっているため、音量差を変えたり、リバーブをかけたりして深みを出すことができませんが、マスタリング段階だけでも深みを出すことは十分可能だと彼は言います。

主に3つの方法が紹介されていましたが、1つ目の方法と3つ目の方法が個人的に興味深かったのでご紹介します。

まず一つ目はこのような方法です。

1. トラックの基本的な開放 (2:17)

  • 目的: ミックスの中心に空間を作り、外側を広げることで、平坦なサウンドをオープンで広々としたサウンドに変える。

  • 方法:

    • Mid帯域のダッキング: Mids、つまり中央の部分で、350Hz付近を約2dBダックします。Q値はタイトに設定。

    • Side帯域のブースト: 6kHz付近でブーストしますが、これはサイドのみ。Q値はワイドに設定する。これにより、リバーブなどの外側の要素を広げる。

楽器がごちゃごちゃしている周波数帯をすっきりさせ、リバーブなどの要素を強調することにより、音に広がりと深みを出すテクニックです。これはミッド帯域に楽器が集まりすぎていると感じるとき、とても使えそうなテクニックだと思いました。

次は、少し変わったテクニックです。

3. キックによるミッドの動きの創造 (6:03)

  • 目的: キックドラムのインパクトに合わせてミッド帯域に微妙な動きと空間を作り出し、トラックに生命感と深みを与える。

  • 方法:

    • マルチバンドコンプレッサー(FabFilter Pro-MBなど)の活用: 1kHz付近にバンドを設定し、Midモードにします。

    • サイドチェインによるトリガー: キックドラムをサイドチェインのトリガーとして設定し、キックが入るたびにこのミッドバンドを「エキスパンションモード」でわずかに拡張する(0.5~1dB程度)。

このようなマルチバンドコンプの使い方をする人は、初めて見ました。低音のトリガーによって、高域をエクスパンド、つまりブースト方向に持ち上げる。これがうまく機能する音楽は限られてくるように感じましたが、少なくともここで紹介されているトラックには、このテクニックが生きていますね。

難しいテクニックなので使うかどうかは別として、このようなクリエイティブなマスタリングの方法があるのだと、とても興味深く観ることができました。

誰でも試せて効果を感じやすいのは、一つ目の方法だと思います。

マスタリング時に、音により深みを出したいと感じるシーンがあれば、ぜひ使ってみてはいかがでしょうか。

📰 今週の音楽ニュース

毎週、世界中から厳選した音楽ニュースをお届けします。

今年のADE(Amsterdam Dance Event)はAI関連の話題が多そうで、かなり気になりますね。

ADEとは、毎年開催される世界的な電子音楽系カンファレンスのこと。AI研究機関であるGoogle DeepMindは「ライブデモやサンプルトラックの試聴を通して、Google DeepMindで働くアーティストたちが、創作プロセスをサポートするAI主導の技術をどのように開発しているかを具体的に紹介する」そうです。

  1. Google DeepMind、ElevenLabs、LANDRなどがADEで音楽テクノロジーに関する議論をリード

  2. 「加入者がVocanaに8ドルを支払い、4人のアーティストを聴くと、アーティストはそれぞれ2ドルを受け取る」:このインディーズプラットフォームはストリーミングの未来を見据えている

  3. Meze Audio 105 Silva レビュー

  4. Instruo Pocket Scionでバイオソニフィケーションで植物と音楽を奏でる

  5. 「アーティストは、サンプルを申告したり、元のアーティストに支払いをする必要もなく、『作品の認識できない部分』をサンプリングできるとみなされていました」: サンプリングが世界を席巻していた時代、そしてドラマーは報酬を得られなかった時代!

  6. このロエベのヘッドフォンは13万5000ドル以上します。なぜでしょう?

  7. David Guetta と Nicky Romero による FASTER MASTER: ワンクリックで数秒でマスタリング!

🎧サービス・書籍のご紹介

<Spotify Memo Chrome拡張版>

Chrome拡張アプリを開発しました。

ついに誰もがアプリケーションを自作できる時代の到来です!これからアーティストは、自分の道具すら自分で作る時代になります。こちらはSpotify Webプレイヤーで再生中の曲に、タイムスタンプ付きのメモを取るための拡張機能です。

<Splice音楽制作講座>

ニュースレターの熱い読者様のフィードバックを経て、新たな項目を追加したり、内容を修正し、リリースに向けて準備中です!

<著書>

作曲AIに関する書籍を出版しました。

アイデアの出し方から作曲、アートワーク制作に至るまで、音楽制作からリリースまでの一連の流れにAIをフル活用する方法を解説しています。Kindle Unlimitedで読めるので、気になった方はチェックしてみてください。

<Suno AI、Udio用プロンプト生成ツール>

ChatGPTで使える、プロンプト生成ツールを作りました。

使い方は簡単。自分の好きなアーティスト名を入力するだけで、そのアーティストの特徴を出力してくれます。それを、Suno AIやUdioなどのプロンプトとして入力することで、そのアーティストのテイストに近い音楽を、AI作曲ツールが生成してくれます。

プロンプト選びに悩んでいる方は、ぜひ活用してみてください。

週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.125

2025年9月5日発行

Blog: https://studio-okina.com/