- 週刊「スタジオ翁」ニュースレター
- Posts
- 週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.124
週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.124
このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。
プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIや最新のテクノロジーを活用することで、本来ならエンジニアに任せるような仕事も個人で完結できるようになりました。
あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。
目次
近況
作曲とミキシングのアイデア帳
今週の音楽ニュース
サービス・書籍のご紹介
📝近況
ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

先週、Chrome拡張として「Spotifyメモ」というアプリを作り、「アーティスト自身が音楽制作の道具やアプリまで作れる時代が、ついにやってきたんだな」と感じていましたが、まさにそれを遥か昔から実践していたアーティスト、ブライアン・イーノの映画が限定公開されていたので、音が良いと評判の「歌舞伎町109プレミアムシネマ」へ観に行ってきました。
このシネマは、以前にもご紹介したことがありますが、坂本龍一が信頼するスピーカーブランド「MUSIK(ムジーク)」を導入し、本人が監修した音響システムを備えています。
音楽界隈でも昔から定評のあるムジークのスピーカーを使っているだけでなく、吸音や壁の反射などにも徹底してこだわっており、映画の音だけがクリアに響く異世界のような快適な空間でした。
内容は、ブライアン・イーノの音楽に対する考え方や歴史を追ったドキュメンタリーで、特に印象的だったのは、彼が自作したオリジナルプラグインが映し出されていた点です。イーノはYouTubeのインタビューでも、自作したシステムによって、これまで作った数万曲を自動的に組み合わせ、音楽を自動生成するAIのようなものを作っていると言っていて、今回の映画をみて、やはりユニークな人物だと改めて感じさせられました。
さらにこの映画自体も、イーノらしい仕掛けがあり、上映のたびに世界にひとつだけの異なる映画が生成されるという点がとても面白かったです。どの部分がランダム生成されているのかは観ているなんとなくわかりますが、それを映画館で配信するための専用ソフトウェアを各館に提供しているという点も面白いポイントでした。作品そのものも素晴らしく映像表現も見応えがあり、もう一度観たいと思える内容でしたね。
これまで、自分で音楽制作のためのアプリやプラグインを作るというのは、ブライアン・イーノのような著名アーティストが、エンジニアを雇ったり誰かと協力しなければ実現できないものでしたが、AI時代には、それが一般のアーティストにも可能になりつつあります。
先週制作した「Spotifyメモ」はまだ審査待ちですが、現在開発している新たなChrome拡張は、従来なら数万円〜10万円ほどするようなサービスを、Chrome上で再現できる特別なアプリとなっています。こんなものが個人で開発できるのは、本当に良い時代です。
これからのアーティストは、音楽を作るだけではなく、道具そのものも作る時代になる。この新時代の考え方、アーティストの在り方についても、今後みなさんと一緒にどんどん追求していければと思っています。
📘作曲とミキシングのアイデア帳
作曲やミキシングが上達する動画・記事・アイデア・最新のAIプラグインやAI作曲ツールをご紹介します。

この動画では、Spotifyの「-14 LUFSルール」にまつわる誤解と、その現実について語られています。多くの初心者が「Spotifyで配信するならマスターを-14 LUFSにすべき」と考えてしまいますが、これは実際には大きな間違いです。
Spotifyは再生時に音量を-14 LUFSに正規化しますが、もし楽曲を最初からその値で仕上げてしまうと、プロによってマスタリングされた他の曲と比べて圧倒的に小さく聞こえてしまうのです・・・
実際、チャート上位の楽曲を見てみると、最も小さいもので-9.5 LUFS、中には-6 LUFSという曲もあるとのこと。つまり、いま流行している音楽は依然として非常に大きな音量でマスタリングされているわけです。その背景には、プロデューサー、ミキサー、マスタリングエンジニアと制作の各段階で「少しでも大きな音量に」という意識が働く業界の構造、そして私たちリスナー自身がトップ40に代表されるような「リミットされたラウドな音」に慣れてしまっている、という現実があります。
この動画ではそうした状況を踏まえ、いかに歪ませずにラウドさを確保するかという具体的なヒントも紹介されています。
その中でも特に印象的だったのが「クリッパーの使い方」です。
多くの人はマスターバスにクリッパーを挿してリミッターの前でピークを削りますが、この動画ではさらに一歩踏み込み、「ドラムとベースのサブグループ」にもクリッパーをかける方法を提案しています。
キックやスネア、ベースといった低音要素は、リミッターに最も負担をかける部分です。そこでマスタリングの段階に入る前に、これらをまとめたサブグループであらかじめクリッピングしておくと、リミッターが過剰に働かず、よりクリーンにラウドネスを稼ぐことができます。設定としては、ほんの1dB程度を目安にクリップし、常にバイパスで聴き比べながら「音質が変わらない範囲」にとどめるのがコツです。わずかにトランジェントが削られても、ミックス全体の中ではほとんど気にならず、むしろ最終的な音質改善に大きくつながります。
さらに仕上げとして、最終マスターバスにも軽くクリッパーを使うことで、まだ残っているスネアやボーカルのピークを自然に処理できます。歪み始める直前まで慎重に調整することがポイントで、これによって最後の数dBをクリーンに稼ぐことが可能になります。
要するに、この動画が伝えているのは「Spotifyの-14 LUFSルールを鵜呑みにするべきではない」ということ、そして「一つのリミッターで無理やり押し込むのではなく、サブグループから段階的にクリッパーを活用して小さな工夫を積み重ねること」が、歪みを抑えながらプロ並みのラウドネスを実現するための近道だということ。
これは、ダンスミュージックやヒップホップの制作には、特に役立つTipsだと思います。ぜひ試してみてください。
📰 今週の音楽ニュース
毎週、世界中から厳選した音楽ニュースをお届けします。

個人的には、Spotifyにメッセージ機能が付くというニュースが興味深かったです。
Spotifyは現在、イギリスで教育プラットフォームの試験していたり、最近ではポッドキャストにも力を入れています。相変わらず音質は改善されていませんが、他の部分で積極的に攻めているのが非常に面白いと感じます。
やはりレコメンドに定評のあるサービスなので、今後SNS的な機能が加われば、DM上で多くシェアされた曲がレコメンドの上位に上がってくるといったように、レコメンド機能をさらに洗練させるためにメッセージ機能が活用されていくのだろうと思いました。
どのような方向に進むのかまだはっきりとは見えませんが、いろいろとユニークな仕掛けを打ち出していて、今後がとても楽しみです。
🎧サービス・書籍のご紹介

<Spotify Memo Chrome拡張版>
Chrome拡張アプリを作りました。
SpotifyのWebプレイヤーで再生中に、タイムスタンプ付きのメモを取るための拡張機能です。公開に向けて審査中です。
<Splice音楽制作講座>
ニュースレターの熱い読者様のフィードバックを経て、新たな項目を追加したり、内容を修正し、リリースに向けて準備中です!
<著書>
作曲AIに関する書籍を出版しました。
アイデアの出し方から作曲、アートワーク制作に至るまで、音楽制作からリリースまでの一連の流れにAIをフル活用する方法を解説しています。Kindle Unlimitedで読めるので、気になった方はチェックしてみてください。
<Suno AI、Udio用プロンプト生成ツール>
ChatGPTで使える、プロンプト生成ツールを作りました。
使い方は簡単。自分の好きなアーティスト名を入力するだけで、そのアーティストの特徴を出力してくれます。それを、Suno AIやUdioなどのプロンプトとして入力することで、そのアーティストのテイストに近い音楽を、AI作曲ツールが生成してくれます。
おかげさまでかなりの数、使っていただいてます。
週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.124
2025年8月29日発行
Blog: https://studio-okina.com/