週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.122

このニュースレターは音楽制作からリリースまでを個人で完結させる、次世代の音楽クリエイターに向けて書いています。

プロに限らず、誰もが音楽を作れる時代になり、AIや最新のテクノロジーを活用することで、本来ならエンジニアに任せるような仕事も個人で完結できるようになりました。

あなたがプロを目指している音楽家であれ、これから音楽を仕事にしたいクリエイターであれ、AI等を活用した次世代の音楽制作、時代に合った新しいリリースの方法を模索しているならきっと参考になるはず。

目次

  1. 近況

  2. 作曲とミキシングのアイデア帳

  3. 今週の音楽ニュース

  4. サービス・書籍のご紹介

📝近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

今週、DaVinci Resolveトレーナーの資格を取得しました。

DaVinci Resolveとは、編集・カラーグレーディング・MA・VFXまでを1本のソフトで網羅し、近年はユーザー数でAdobeを超える勢いを見せるBlackmagic Design社のソフトウェアです。ここ数年、映画の仕事で使う機会が多く、Blackmagic Design社と関わる機会も増え、一昨年はアメリカで責任者の方にお会いし、直接フィードバックをお伝えする機会もありました。

AdobeのPremiere、Photoshop、そしてAvidのPro Toolsなどはかなり高価で、初心者には使いづらい面もあるのですが、そんな中、AdobeやAvidと同等のプロ級編集ツールが誰でも無料で使えることもあり、近年爆発的な成長を遂げています。

今後はトレーナーとして、その魅力を広めていきたいと思っていますが、すでに関わりのあるオンライン講座でDaVinci Resolveの動画講座をローンチしたりもしています。もし「動画編集を本格的に行いたいけれど、ソフトが高いからなー」と悩んでいる方は、ぜひ無料のDaVinci Resolveを試してみてはいかがでしょうか。

さて、このトレーナー資格を取るにあたり、Blackmagic Design社の社長とお話ししたのですが、DaVinci Resolveは他の編集ソフトに比べて、かなり多くのAI機能が搭載されていることでも知られています。

初心者向け編集ツールであるCapCutやFilmoraに寄せていくのか、それともAdobe PremiereやApple Final Cut Proのような本格派路線に今後も進んでいくのか気になったので伺ってみたところ、AIはあくまで人間を補完するためのツールとして開発を進めているとのことでした。

編集作業においては8割が単純作業、2割がクリエイティブな作業だと言われています。この8割の単純作業をAIが担い、人間はクリエイティブな作業のみに集中できるようにすることを目的としている、というお話で、ここ数年のAI関連の話題を見ていても、この方向が一般的になっていくのだろうと改めて実感しました。

とはいえ、それも現時点での話で、あと5年、10年もすれば自立型のAIも出てくると思うので、一歩先を行くならAI主導のクリエイティブなのではないかとも個人的には感じています。AIのCEOが誕生するのも時間の問題だとも言われていますが、AI自らがクリエイティブな判断を行い、AI主導で作品を作るといったことも十分考えられます。

この考えは、少々先を行き過ぎてはいるものの、この方向性も徐々に開拓していきたいと感じる面談となりました。

そういえば、Suno AIが最近オンラインDAWの会社を買収し、公式ページでは“Coming Soon”としてDAWのような画面と共に、新しい機能が告知されていました。

SunoAIに、まもなくAbleton LiveやLogic Proのような「DAW機能」が搭載される可能性があります。

ここ数ヶ月の、AIのとてつもない進化のスピードにワクワクしかありません。ChatGPT-5も登場し、最高にAI熱がくすぐられる1週間となりました。

📘作曲とミキシングのアイデア帳

作曲やミキシングが上達する動画・記事・アイデア・最新のAIプラグインやAI作曲ツールをご紹介します。

なんでもローカットは正しいのか?

以前、低音の研究をしている名古屋大学の先生とたまたまバーで知り合い、低音について3時間ほど、初対面にも関わらず熱いお話しをさせて頂いたと、このニュースレターでもお伝えしたことがあるかと思います。

その際、ホールでのオーケストラ演奏に、低音専用のスピーカー、いわゆるウーファーを持ち込んで可聴域ギリギリの低音を鳴らすことで、なぜかオーケストラの音が遠くまで聴こえるようになり、さらに聴き手が明らかに違いを感じるほど感動も増したという話をされていました。

しかし、低音のパワーはまだまだ理解されていないのか、マスタリングにおいては定説として、「20~30Hz以下はカットしよう」といった話もあり、一昔前の曲はそのあたりの低音がバッサリカットされていたように思います。

ところが、最近の曲は30Hzあたりがふんだんに入っているものもあり、クラブじゃないと聴こえないだろうと思うくらい、低音がきっちり含まれている楽曲も多々あります。

そして、この名古屋大学の先生の話と繋がったのですが、最近の音楽に低音がしっかり入っているのはキックの迫力を増したいとか、クラブやステージでお客さんの体を振動させたいという理由だけではなく、低音を入れることで中域のボーカルや高音域までもリスナーにしっかり届かせたいという狙いもあるのかもしれない!とふと感じました。

ちょっとオカルトのような話ですが、低音を入れることで中高域の伸びが良くなるというこの話を思い出し、マスタリングの時にはきっちり低音を入れることを意識すると、作品の質が向上するのではないかと思いました。

割と僕は普段から低音の質にはこだわっていますが、この話は2年ほど前に聞いて忘れかけていたので、自分への教訓として「中高域の伸びのための低音の処理」をもう一度意識してみようと思います。

ぜひ皆さんも、この視点から低音を処理してみてください。ミキシング・マスタリングの新たな扉が開くかもしれませんよ。

📰 今週の音楽ニュース

毎週、世界中から厳選した音楽ニュースをお届けします。

個人的にはタイニーバイナル(超小型レコード)にびびっときました。

簡単に作れそうだし、かわいい。本物のレコードであり、コレクターグッズとしても魅力的なサイズ感。もしかしたら数年後、このフォーマットが流行ってるかもしれませんね。

  1. 「クラブを本来の姿に戻したい」:ウェアハウス・プロジェクトが携帯電話禁止を導入へ ― 携帯電話禁止のショーが人気を集めている

  2. 「バブルが崩壊すれば、この技術に関する壮大な主張はとてつもなく誇張されていたことが明らかになる」:音楽制作における AI ― どこで線引きすべきか?

  3. タイニー・ビニール:フィジカル音楽文化に大きなインパクトを与える小型フォーマット

  4. Slate + Ash Ruins: Kontakt の新しいインストゥルメントが、実験的なギタースケープの旅へと誘います

  5. 「AIを活用して人間の創造性を高める方法はある」:There I Ruined Itの制作者は、音楽におけるAIのより微妙な見方を主張している。

  6. DFAM にインスパイアされた Vertex for Max for Live で、パーカッションの楽しさをすぐに味わえます

  7. Critter & Guitari Organelle S2、音楽コンピューターのより強力なバージョン

  8. Emily A. Sprague日本ツアー音源を収めた新作『Cloud Time』を今秋リリース──先行シグル「Tokyo 1ヴィジュアライザー公開

🎧サービス・書籍のご紹介

<Splice作曲講座>

ニュースレターの熱い読者様のフィードバックを経て、新たな項目を追加したり、内容を修正し、リリースに向けて準備中です。盛り込みたいことが多すぎて、いつになるのやら…

今年中には必ずリリースします。

<著書>

作曲AIに関する書籍を出版しました。

アイデアの出し方から作曲、アートワーク制作に至るまで、音楽制作からリリースまでの一連の流れにAIをフル活用する方法を解説しています。Kindle Unlimitedで読めるので、気になった方はチェックしてみてください。

<Suno AI、Udio用プロンプト生成ツール>

ChatGPTで使える、プロンプト生成ツールを作りました。

使い方は簡単。自分の好きなアーティスト名を入力するだけで、そのアーティストの特徴を出力してくれます。それを、Suno AIやUdioなどのプロンプトとして入力することで、そのアーティストのテイストに近い音楽を、AI作曲ツールが生成してくれます。

プロンプト選びに悩んでいる方は、ぜひ活用してみてください。

週刊「スタジオ翁」ニュースレター版 vol.122

2025年8月15日発行

Blog: https://studio-okina.com/