週刊「スタジオ翁」ニュースレター vol.12

  1. 近況

  2. 世界の音楽ニュース

  3. 未来をつくる音楽機材

  4. 今週の…

  5. Okina’s Picks

  6. ブログ更新のお知らせ

  1. 近況

ここでは、最近取り組んでいる音に関すること、仕事のこと、音楽制作のことについて書いていきます。

今週は、こんなサービスを見つけました。

女性テクノDJ、Avalon Emersonが立ち上げたサービスで、インディーズ系アーティストがファンに向けて、自分たちの音楽を販売するために使うことができます。

Bandcampに紐づいた曲が、アーティストによってプレイリスト化されており、好きなアーティストのプレイリストを聴いて、気に入ればすぐにBandcampに飛んで購入できるという仕組み。

過去には、Wired Japanでも記事として取り上げられていますね。

色々聴いていると、ミニマルテクノでお馴染み、Chris SSGさんが作ったプレイリストを発見!

とても心地よくて、ずっと聴いていられます。

と言っても、こちらは2020年のプレイリストなので、結構古いですね。

それもそのはず、どうやら最近はあまりアップデートもされていないようで、Twitterの公式アカウントも昨年から更新されていません。

おそらく、コロナで苦境に立たされたアーティストを支援するために立ち上げられたサービスなので、生活が日常に戻った今、あまり更新する必要もなくなってきているのでしょう。

せっかく素晴らしいサービスなので、定期的なアップデートがあると嬉しいんですがね・・・

  1. 世界の音楽ニュース

音楽の世界は日々進化しているので、音楽制作の環境もビジネスの方法も、数年経てばガラリと変わってしまいます。日々、世界の音楽トレンドを探ることで、ワクワクするような新製品・新たな音楽サービスを発見し、また、今後アーティストが生き残るためのヒントを見つけ出します。

  1. DAWワークフローに最適な500シリーズ・モジュールAPI 500シリーズ・モジュールというラックタイプのアナログエフェクターがあるのですが、プリアンプ、EQ、コンプなどが手頃な値段で購入できるので、個人でも音にこだわりのある人は使っていることが多いですね。コンソールを1台買うととんでもない値段になりますが、有名なコンソールから特定の機能を抜き出したAPI500シリーズだと、一般人の僕らでも手が届きやすいです。販売されているモジュールは種類がとても多いので、こういった記事で紹介されているものから始めてみるのも手ですね。

  2. 米英のアーティストの75%が音楽リリースで損をしている→タイトルの通り、アメリカとイギリスでは、75パーセントの音楽リリースが赤字を叩き出しているそうです。逆に、「25パーセントのリリースは儲けが出ている」ということを考えると、意外とアーティストでもマネタイズできてる人はいるんだなと感じます。一見、悲観的に見えるこの数字ですが、個人でマネタイズできる時代なので、もっとアーティストにとって有利な市場になっていく可能性もあります。

  3. Ableton Liveで空間オーディオとヘッドトラッキングを実現 - しかも高価ではない→1万2,000円ほどのヘッドトラッキングベルトとIRCAMのxp4lを使えば、どんなヘッドフォンも「ヘッドトラッキングヘッドフォン」に早変わりします。空間オーディオ体験は、安い機材が次々に登場していて、誰もが使えるツールになってきています。

  4. Adobe Photoshopの新機能「AI Generative Fill」を使って、象徴的なアルバムアートワークを拡張するアーティストが続出中→Adobe Photoshopの新機能を使えば、あらゆる画像の「枠外」の部分を再現することができます。例えば、ビートルズが横断歩道を渡っている有名な写真の外でいったい何が起きているのか?それをAIが想像して再現してくれるのです。「アルバムアートワークのアイデアはあるけど、形にできない」という人は、簡単なアイデアをAIに投げるだけで、アートワークが出来上がるという未来がすぐそこまできていることを、この記事は示してくれています。

  5. KIT Plugins BB N73 Preamp / EQ - A Mix Real-Worldレビュー→ナッシュビルの著名スタジオであるBlackbird Studiosが所有する、12台のビンテージ1073をモデルにしたプラグインが登場。マイク入力モードでハーモニックディストーションを加えたり、バーチャルセルフノイズを与えることによってミックスにグルー感やアナログのリアルな感じを出すことができます。

  1. 未来をつくる音楽機材

音楽機材やプラグインは毎年新しいものが登場します。特に、プラグイン(音楽ソフト)はコンピュターの進化に伴って、毎年進化していきます。今や、AIプラグインなどの最新技術を活用することで、技術や経験の蓄積をすっ飛ばして優れた音楽が作れる時代になりました。ここでは、そんな音楽制作に役立つ最新の音楽機材・プラグインの情報をお伝えしていきます。

こちら、過去にブログでも紹介していますが、AIプラグインの代表格とも言えるEQを改めてご紹介いたします。

たった5つのパラメーターを使い、ミックスを「良い感じ」に仕上げてくれる、iZotopeのOzoneNeutronのようなプラグインで、精度がとても高いので、初心者からミックスに慣れてきた中上級者に本気でおすすめできる一品です。

僕は、しばらくGullfossから遠ざかっていたのですが、最近マスタリング仕事が増えてきたので、Gullfossをうまく活用できないかと久々に使ってみると、想像以上にうまく仕上げることができました。

どのように使うかというと、僕のマスタリングチェーンは主に、

  1. バスコンプ

  2. Gullfoss

  3. サチュレーター

  4. Ozone

  5. EQ

  6. コンプ

  7. クリッパー

  8. リミッター

となっているのですが、Gullfossでミックスバランスを大まかに整えて、次の本格的なマスタリングステージに入りやすくなるようにしています。

Ozone10から「Stabilizer Module」という似たような機能がついているのですが、個人的にはGullfossの方が精度がよく、ミックスが整いやすいです。

ここはマスタリングステージの最初なので、過度にかけずに、軽く整える程度にとどめ、そのあとOzoneのAIマスタリングも使って整えていきます。

5,6にEQとコンプが入っているのは、結局AIツールは万能ではないので、最後は耳で判断して調整することになるからです。

それでも、最初にGullfossがマスタリングの方向性を示してくれるので、全体的なマスタリングのしやすさは、Gullfossなしの時と比べて段違いですね。

AIツールは万能ではないものの、うまく使えばとてつもなく強力なミキシングの味方になってくれます。

マスタリングでお悩みの方は、ぜひGullfossを試してみてください。

  1. 今週の…

ここでは毎週違ったテーマ、例えば、日本や世界各地で録りためたフィールドレコーディング、おすすめの1曲、音楽に関する映画、などをお届けします。皆さんの音楽制作の刺激になるような、おもしろいコンテンツを毎週ご用意していきたいと思います。

クリストファー・ノーランのファンなら、すでに何度も観ているかもしれませんが、今週紹介したいのは、「時間のルールから<脱出>し、第三次世界大戦から人類を救う」という奇怪なテーマの映画作品「Tenet」です。

ストーリーや演出が優れているのはもちろんですが、このニュースレターで取り上げたいのは、やはり音楽です。

クリストファー・ノーランといえば、長年、Hans Zimmerという偉大な作曲家と作品を作り上げてきましたが、今回はHans Zimmerが幼い頃から大ファンであった「Dune 砂の惑星」が同時期に映画化されるということで、運の悪いことに、制作期間が被ってしまったTenetに参加することができなくなってしまいました。

ここで登場するのが、Ludwig Göranssonという才能溢れる作曲家。

Has Zimmerにとって運の悪い出来事でしたが、僕らにとってはLudwig Göranssonという才能を知ることのできる、最高に運の良いハプニングとなりました。

Ludwigは若い頃からオーケストラの指揮に携わるなど、クラシックの素養もありながら、最近の電子音楽やポップスにも精通しており、その知識や経験から生み出される作品は、今までの作曲家のものとは大きく違っています。

Tenetは「時間の反転」がテーマの1つとなっているのですが、Ludwigはこれをかなり特殊な作曲方法で表現しています。

それがこちらの方法。

  1. リズムセクションを録音し、それを逆再生する

  2. ミュージシャンがその逆再生音源を真似て演奏、録音する

  3. その録音をさらに逆再生する

これで、曲としてうまく成り立つのがすごいですね。

サントラでも聴けますが、Tenetにはかなりぶっ飛んだ音楽が多いのですが、こういった奇抜な発想ができる彼ならではだと思います。

まだこの映画を観ていない人は、ぜひ音楽のそういった部分も気にしながら観てみると、より楽しめると思います。

  1. Okina’s Picks

最後に、音楽的想像力をかき立てる、クリエイティブなコンテンツをどうぞ。

📺YouTube: 8 Chill Lofi Chord Progressions (Lofi Piano Tutorial) - 「このジャンルにはこのコード」というのはある程度決まっています。最近はやりのLofiに合うコード進行が8つ紹介されているので、初心者のうちは、まず、こういったところからコードだけ丸パクリして、作ってみるのが良いでしょう。

🎧音楽: The Best Field Recordings on Bandcamp, May 2023 - Bandcampの特集はいつもチェックしていますが、今回はフィールドレコーディングに関する特集です。ただ、野外で録った音を作品にするだけでなく、編集してクリエイティブなサウンドに仕上げているアーティストもいて、とても面白かったです。

📖記事: How to make a song from start to finish using KOMPLETE 14 Select→「どうやって曲を作ればいいのかわからない」という人むけに、一から丁寧に音楽の作り方が解説されています。基本的なことが多いですが、「いまいち音楽制作の流れがわからない」という人は、こういった記事でおさらいしてみるのも良いでしょう。

🎧チル: Alice & Joe Show: May '23 - Alice Boydという素敵な雰囲気のアーティストを見つけました。彼女が定期的に出しているミックスも、とても心地よい雰囲気の楽曲が揃っています。

  1. ブログ更新のお知らせ

UA 1176とLA-2Aのいいとこ取りをしたようなコンプレッサー「LA-3A」についての記事をまとめました。

とにかく音が前に出てくるので、ドラムやボーカルに最適ですが、やりすぎると全ての音が前に出てくる奥行きのない音楽になってしまうので、注意が必要。

うまく使えば、ミックスの秘密兵器として活躍してくれるでしょう。

週刊「スタジオ翁」メルマガ版 Vol.12

2023年6月9日発行

Blog: https://studio-okina.com/

Twitter: https://twitter.com/studiookina